夕方から続けている作業が4時間経っても終わる気がしなくなり、悠美がため息をついていると、後ろからこもったような低い声が聞こえてきた。
「行き詰まってますね〜」
振り返ると、赤城がニコニコしながら悠美の後ろに立っていた。
「悠美さん、サクッと夜ご飯でもどうですか」
「あ...はい」
あまりにも無邪気な笑顔を見せる赤城に、悠美は思わず頷いていた。
荷物を片付け、ドアを開けようとすると、赤城は自然に悠美の前に出てドアを開けた。その瞬間、ふわっと漂ったムスクの香りに、悠美は無意識のうちに目を閉じて思いっきり息を吸っていた。
「FUEGUIAの香水、いい匂いだよね」
悠美の表情を見逃さなかった赤城は、ふふっと笑いながら声をかける。
「すみません、いい匂いすぎて思わず...あ、変な意味とかじゃなくて、メンズの香水あまり嗅がないので、なんだか新鮮で」
何とか取り繕った後も、横を歩く赤城を、悠美はまじまじと見ながら観察した。
-そういえば幸人にも昔香水をあげたことがあったっけな。
ふと過去の誕生日に贈った香水すらつけなかった幸人を思い出し、落ち込んだ気持ちになっていると、赤城が首を傾げ、不思議そうに話しかけてくる。
「どうかした?」
「あ、いえ!なに食べますか?」
オフィスの受付横で立ち止まると、赤城は顎に手を当てて、ニヤリとしながら悠美を見る。
「そうだなぁ、僕の就任祝いってことで、お寿司とかどう?」
オフィスでは見せないような笑顔を浮かべる赤城に、悠美は釣られて笑っていた。
「あ〜楽しい」
笑いながら思わず出た自分の言葉で、悠美は久しぶりにその感情を抱いたことに気がついた。
◆
『パティスリー ビヤンネートル』には、輝くような色とりどりのケーキが並ぶ。
スプーンを口に運ぶと、甘酸っぱいいちごのソルベが口いっぱいに広がり、悠美はうーん、と幸せそうに目を閉じて声を漏らした。
「で、赤城さんとどうなったの?」
結論を聞きたくてうずうずしている美波は、パフェの感想も聞かず悠美に質問した。
この記事へのコメント
やめておこうか。
もう飽きたよ。
それにしても「前のめり」になる人が登場する率が高い。頬張る人は減ったけれど笑