ひも結び Vol.5

「こんな人と結婚するなんて思わなかった」本音を聞かされた、31歳女の苦悩

心の安らぎのため、人は愛を求める。

しかし、いびつな愛には…対価が必要なのだ。

―どこへも行かないで。私が、守ってあげるから。

これは、働かない男に心を奪われてしまった、1人の女の物語。

◆これまでのあらすじ

31歳の川辺望美は、役者志望のヒモ・ヒデを飼っている。過去の恋のトラウマを、ヒデを飼う事で癒やしていたが…。ある日、ヒデのポケットから見知らぬ鍵を見つける。さらには、ヒデを「ペットの猫」と偽っていたことが本人にバレてしまうのだった


初春の優しい陽光が、ガラスの天井から色とりどりのデザートに降り注ぐ。

『リストランテASO』で行われている上司の披露宴。凛と望美は、花嫁となった上司と話す機会を待ちながら、デザートビュッフェのケーキをお皿に盛り付けていた。

「今日の鈴木さん、めっちゃ綺麗ですね〜!40歳でしたっけ?ウエディングドレス着てると全然若く見えますね!」

お皿いっぱいのケーキやシュークリームを頬張りながら、凛は興奮した様子で望美に話し続ける。

「こら、凛ちゃん。おめでたい席でそんな話しないの」

そんな凛をたしなめながら、望美もケーキをひとくち口に含む。上品で繊細な甘みの美味しいケーキだったが、ほとんど食欲のない望美は、ほんの一口ケーキを食べただけでフォークを皿に置いてしまった。

「でも、鈴木さんもめちゃくちゃ綺麗ですけど、今日の川辺さんもかなり素敵ですよ。そのドレス、ヨーコチャンのですよね?めちゃ似合っててカッコイイです〜!」

「そう?ありがとう」

つとめて自然にお礼を言った望美だったが、実のところ、本当にこのドレスが似合っているのか自信を持てずにいた。

30歳を超えてからだんだんと可愛らしい色が似合わなくなってきたため、質の良いベーシックなブラックドレスを選んでみたのだが、暗すぎるドレスの色が顔色を悪く見せているようにも思えてしまう。

美味しいケーキを食べても、凛にうっとりとした目でオシャレを褒められても、望美の心は重たく沈んだまま。その理由は明白だった。

いつもなら「望美さん、最高に綺麗だよ」と褒めてくれる、ヒデがいない。

先週『マイヨール』で、望美がその存在を猫として隠していたことがヒデにバレてしまってから、1週間もの間。ヒデは、望美のもとに帰宅していないのだった。

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