ひも結び Vol.4

「彼が無職だなんて、誰にも言えない」プライド高め女子を襲う、絶体絶命の危機

心の安らぎのため、人は愛を求める。

しかし、いびつな愛には…対価が必要なのだ。

―どこへも行かないで。私が、守ってあげるから。

これは、働かない男に心を奪われてしまった、1人の女の物語。

◆これまでのあらすじ

IT企業で働く31歳の川辺望美は、役者志望のヒモ・ヒデを飼っている。過去の恋のトラウマを、ヒデを飼う事で癒やしていたが…。ある日、裏切るはずのないヒデのポケットから見知らぬ鍵を見つけてしまう


深夜に見つけた鍵について聞かずにいるまま、2週間という時間が経っていた。

”聞かずにいた”のではなく、”聞けなかった”と言った方が正しいかもしれない。とにかく、自分でも意外なほどひどく動揺してしまった望美は、拾い上げた鍵を見なかったことにして、ヒデの上着のポケットにもう一度戻したのだ。

上岡にしたのと同じように半狂乱でヒデを問い詰めるような真似は、みっともなさすぎてしたくなかった。

ヒデとの関係性は、望美が優位に立っているはずなのだ。男性としっかり向き合う気がないから、こうしてヒデを養っている。

頭ではそう理解していても、望美の胸に渦巻いてるのは、怒りにも似た言いようのない感情だ。

―私のところ以外に、どこか行くあてがあるの…?ううん、そんなはずない。毎日夜には家にいるんだもの。

土曜の朝からテレビゲームに勤しむヒデの後ろ姿を見ながら、答えの出ない思考を繰り返す。しかし、モヤモヤとした気分に疲れを覚え始めた望美は、ヒデが入れたコーヒーを飲み干しながら冷静を装って言った。

「私、午後ちょっと出かけてくるから」

「どこ行くの?」

「来週上司の結婚式があるから、日本橋までパーティードレスの試着に行きたくて」

するとヒデはゲームの画面から目を離し、明るい表情を見せた。

「えっ、俺も行きたい!八丁堀に超うまいスパゲティ屋があるの知ってる?ついでに行こうよ!望美さんと一緒に行きたいな〜と思ってたんだ」

キラキラと瞳を輝かせるヒデを見て、望美は心のモヤがほんの少しだけ晴れるのを感じる。

ヒデが自分を裏切っているなんてこと、あるはずがない。

近所や会社の近くをヒデと歩くのは気が引けたが、全くテリトリー外の八丁堀であれば、知り合いに遭遇することもないだろう。

望美は少々ためらいながらも、安堵に背中を押されて答える。

「じゃあ…ドレス見に行く前にちょっと寄ろうか?その代わり、その無精髭はちゃんと剃ってよね」

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