2020.01.21
SPECIAL TALK Vol.64日本の改革を中国以上のスケールで
金丸:1989年は私が起業した年でもあるので、とても印象深い年です。ベルリンの壁が崩壊する前に、天安門事件が起こって。事件の映像をテレビで見て、「中国は終わった」と感じました。でも鄧 小平は力で押さえつけたあと、開放政策にぐっと舵を切るじゃないですか。
羅:ええ。僕らの世代の人間は、おそらく鄧 小平に感謝しているでしょう。彼が開放路線を打ち出したから、われわれは海外に行くことができたし、民間企業も成長した。その功績は大きいと思います。
金丸:ほかの人だったら、今の中国の成長はないかもしれません。
羅:そこが鄧 小平のうまいところというか、当時中国では、みんな政治制度ばかりに注目していたけれど、鄧 小平は根本的な問題は経済だと考えたんです。「国民の生活が豊かにならなければいけない」と。彼の路線変更によって国民の生活レベルはよくなり、いろいろな問題も緩和されました。
金丸:それから中国は劇的に変わっていきましたね。
羅:本当に。92年には上海を経済特区として開放し、それが現在のビルがいっぱい立ち並ぶ上海を作り出しました。僕が日本に来た頃には、あのあたりは何もない田舎でしたよ。
金丸:ところで、留学といってもほかの国、たとえばアメリカという選択肢もあったと思いますが、なぜ日本を選んだのですか?
羅:行きやすかった、というのが一番ですね。
金丸:地理的に近いから?
羅:それもあるし、アメリカだとビザの申請ももっとハードルが高かったんです。だから日本を選んだというか、選択肢がほとんどなかったというのが正直なところです。
金丸:来日したとき、日本語は話せたのですか?
羅:まったく。だから日本語学校に2年くらい通って勉強し、東京大学大学院で研究生として2年過ごしたあと、横浜国立大学大学院経済研究科に進学しました。
金丸:日本での生活はどうでした?
羅:全然大丈夫でしたよ。日本は基本的に生活費が安いので。卵も1パック100円で買えるし。とはいえ経済格差は大きく、その頃の中国の月収は日本円で2,000〜3,000円だったから、僕も勉強しながらアルバイトしていました。でも若かったので、疲れてもなんとかなった(笑)。今振り返ってみると、充実した日々でしたね。
金丸:それから30年が経ち、もはや日本と中国の力関係は逆転したように思います。
羅:この30年間の日本と中国は対照的です。僕が来た頃の日本は絶好調だったけど、そこから成長が止まっています。2010年には、中国のGDPが日本を超えました。ただ僕は、日本が少しずつ元気になってきているようにも感じています。
金丸:それはどういう部分で感じるのでしょう?
羅:やはり規制緩和の影響が大きいのではないでしょうか。海外に対して門戸を開き、インバウンドを積極的に取り込もうとしているし、労働力として海外の研修生も大量に受け入れています。カジノ建設の話もある。一方で中国は成長が鈍化している状況なので、もう一度、日中間でコラボできるんじゃないかと思います。
金丸:規制緩和とおっしゃったけど、鄧 小平のスケールに比べたら日本はかないませんよ。彼は中国の沿岸部全地域で規制を取っ払いました。一方、日本の国家戦略特区は、千葉市とか福岡市とかピンポイントの地域に限られています。日本が再びよい方向に向かうためには、人口が10倍以上ある中国よりももっと大きなスケールの特区が必要です。そう考えると、日本全国を特区にするくらいじゃないと。
羅:そうですね。確かに日本は特区が増えたけど、誰も知らない特区がいっぱいある。
金丸:誰も知らないし、規模も小さいし、インパクトもない。
羅:中国だと、深圳(シンセン)がわかりやすいですね。中国が最初に作った特区が深圳なんですが、開放前はただの漁村だったのが、今ではハイテク企業が集積し、金融センターにもなり、欧米よりもきれいな街になっています。
金丸:だから、日本ももっと大胆に変えていかないといけません。今は民主主義のいいところよりも悪いところが出てしまっています。物事を決めるのに時間がかかりすぎるし、決まったとしてもスケールが小さい。
羅:でも以前と比べれば、かなり変わっているのは間違いないですけどね。ただ、今の時代、日本のスピードじゃまだまだ遅いと思います。
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