「どうしてあの人は、私のことを好きになってくれないの?」
恋愛の需要と供給ほど、バランスが崩れているものはないかもしれない。
好きなあの人には振り向いてもらえず、好きでもない人からアプローチされる。
そして、満たされぬ思いを誤魔化すために、人は自分に嘘をつく。
嘘で自分の感情を誤魔化した先に待っているのは、破滅か、それとも…?
満たされぬ女と男の、4話完結のショートストーリー集。1話~4話は、ー片想いー
「紗英、お待たせ」
金曜23時の南青山。『バーブーツ』の店内に、健二の低い声が響く。自分で呼び出しておきながら、その声にハッとしたと同時に、新着のないLINE画面を茫然と眺めていたことに気づかされた。
「もう、遅いよ~。待ちくたびれた~」
私がおもむろにバーカウンターに座った健二の腕に触れると、彼は明らかに嬉しそうな顔をした。
その姿は、私をどことなく安心させる。
モテるであろう男が夜中に自分に会いにきてくれたという事実が、自尊心を満たす。
「いや、これでも早いほうだろ」
取り繕うように早口になった健二は、ウイスキーのソーダ割りを頼むと、勢いよくグッと飲み干した。優に180cmを超えるガタイに、一気にアルコールが吸引されていく。
彼は、私が呼び出すといつも必ず来てくれる。
ちょっと前までは、「ちょうど近くで飲んでた」なんて見え透いた嘘をついて駆けつけてくれた健二だったが、最近はそんな言い訳もしなくなった。
外資系IT企業の営業マンをしている彼は、普段はスーツ姿のはずだが、今日は、足元はスニーカーというラフなスタイルだ。
ということは、帰宅したあとにも関わらず、わざわざ会いにきてくれたのだろう。
健二は2杯目のソーダ割りを半分ほど飲み終えた頃、私の触れてほしくない話題に切り込んできた。
「またか?」
私が「何の話?」なんて言ってはぐらかしても、逃がしてはくれない。
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