2020.01.10
フォロー・ミー! Vol.1◆
重苦しい空気の中、梓は上司である小林祥太朗に今回の件を報告していた。
「要するに、カナが撮影した写真ではなく、クライアント側で用意した画像をそのまま投稿して欲しいっていうことなんだね」
よくある話だ、とでも言いたげに小林は顔色ひとつ変えずに梓の話を聞いている。
「その依頼通りに修正させるのがマネージャーの仕事だろ?なんでカナを説得できないんだ?」
マネージメント部のリーダーである小林は、きつい口調で梓に詰め寄った。
彼はもともと芸能事務所で働いており、有名女優やタレントのマネージメントを20年以上もつとめてきた。
いわばマネージメントのプロといえる。経験豊富で頼りになることも多いが、インフルエンサーを商品としかみていないような節もある。
インフルエンサーを尊敬し、フォロワーを大切にしたい新人の梓には、小林の言っていることが理解できないこともあった。
「わかっています。…ただ、クライアントの修正案にしたがうと、カナさんのテイストからかけ離れたものになって、フォロワーが減ることは目に見えています。この投稿は双方にとってマイナスになるだけだと思うんですけど…」
ーとうとう言った!この3ヶ月一度も小林さんに意見できたことなんて無かったのに。
そんな梓の熱い想いに対し、小林は一刀両断。
「つべこべ言わず、クライアントの指示通りに修正させろ!それができないならマネージャー失格だ!」
そう言い残し、彼は聞く耳を持たずに、会議室から出て行ってしまった。
—どうしよう…。
会議室でひとり肩を落とし考え込んでいた。
ー私ちゃんと「Berry love」の担当に説明したよね…。カナさんのテイストとか画像の加工について。なんで今になって…。
急にハッとした表情をして、梓は会議室を出て足早に自分のデスクへ戻った。
ーとにかく、もう一度直接会ってみよう!
焦る気持ちに急かされるように、パソコンを起動し、梓はクライアントにメールを打ち始めたのだった。
これまでの梓だったら、上司の意見を素直に受け入れてカナを説得していただろう。
だが、好きで選んだ仕事だからこそ、信念がある。
前職では感じられなかった情熱が、梓を突き動かし、大胆な行動へと走らせたのだった。
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新人マネージャー・梓の行動は、吉とでるか凶とでるか。クライアントを説得できるのか!?
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