「ドラマみたいなこと…ですか?」
質問の意図を不思議に思いながらも、美希は懸命に頭を巡らせる。そして、考えに考えた末に、昨年の出張中の出来事を思い起こした。
「そういえば、出張でビジネスクラスに乗った時に、初めて『お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?』っていう現場に遭遇しました!」
「えー!すごいね。本当にあるんだ」
明るい声色で伝えてみたものの、百々子の表情は全く晴れない。
気の無い百々子の返事に、美希は思わずしょんぼりと肩を落とす。すると百々子は、慌てたように美希の顔を覗き込んだ。
「ごめんごめん!美希ちゃんの話、本当にドラマみたいって思ったよ!でも…私が思い浮かべてたのは、もっと…事情と欲望が入り乱れるような人間関係みたいなことだったから、ちょっと拍子抜けしちゃって」
「ドロドロした…人間関係?百々子さん、人間関係で何か悩んでるんですか…?」
聞き捨てならない百々子の言葉に、美希は恐る恐る尋ねる。
その言葉を受けて百々子は、躊躇するように身をすくめたあと、深刻な表情で美希に問いかけた。
「うん…。相談したら、ちょっとは整理できるのかな。美希ちゃん、聞いてくれる…?」
眉をひそめて深い深呼吸をした百々子の口から出て来たのは、信じられない言葉だった。
「実はね…。20年前に別れた元夫が、新しい奥さんと一緒に、私が住むマンションに引っ越してきたの…」
「えっ!?」
予期せぬ言葉を浴びせられた美希は、思わず身を固くする。そんな美希の様子を見て、百々子は困ったように笑いかけた。
「それで、富澤さんのお宅で家族ぐるみの食事をしてるときに、元夫と奥さんが偶然引越しの挨拶に来て…なんて。ごめん!急にこんな話きかされても、困るよね」
「いえ、そんなことないです!ただ、ちょっとビックリしちゃって…。っていうかそもそも、百々子さんってバツイチだったんですか!?」
焦りを隠せずに挙動不審になる美希を、百々子はキョトンとした顔で見つめる。
「あれ、言ってなかったっけ?私も夫も、バツイチ同士の再婚だよ。それに、夫は今も…。私の他にも、よそに女性がいるみたいだし」
「ええっ!?」