一度足を踏み入れたら…男も女も、抜け出せない。
それが“家族ぐるみ”という、底なしの沼。
夫の友人家族である日向家と山本家。両家族との “家族ぐるみ”で苦しんだ海野美希は、あれから2年後、妻である律子と千花との付き合いを続けていた。
平和な毎日を送る美希だったが、ある日夫の誠に連れられて行ったレストランのパーティーで、ある女性と出会い…。
武蔵小杉駅から自宅タワーマンションまでのわずかな道のりを、海野美希は足元をふらつかせながら歩く。
時刻は24時。金曜日の夜とはいえ、少し羽目を外してしまったようだ。
―誠くんと真奈は、もう寝てるかな…?
アルコールの回った頭でそんなことを考えながら、美希は足跡を殺してそっと自宅に入る。しかし予想に反し夫の誠は、まだ眠らずに缶ビールを飲みながらリビングでWOWOWのドラマを鑑賞しているのだった。
「おっ、おかえり。なんだよ、すっかり出来上がっちゃってるみたいだな」
「だって、律子さんも千花さんも、すごい量飲むから…。ごめんね、真奈の世話頼んじゃって。でもおかげで楽しい女子会だったよ」
「家族ぐるみで付き合ってた時はあんなに揉めてたのに、いまじゃすっかり仲良しかぁ。女同士は分からないもんだね」
日向家と山本家との家族ぐるみの関係に終止符を打ってから2年。家族全員で集まる機会は相変わらず無いものの、律子と千花との妻同士の付き合いは、今やすっかり定着していた。
楽しかった飲み会の余韻を胸に抱きつつ、美希はキッチンのウォーターサーバーへと向かう。そして、「そんなこともあったっけね」ととぼけながら、冷たい水に口をつけた。
「はぁ〜!生き返る…。もうしばらくお酒はコリゴリ…」
酔った体に冷たい水が染み渡っていくのを感じていると、いつの間にかキッチンに来ていた誠が美希の背後で大げさにため息をついた。
「しょうがない。じゃあ…コレは誰か会社のやつと行ってくるかな」
そう言う誠の手には、一通の封筒がひらひらとひらめいている。美希は怪訝に思いながらも、グラスを口から遠ざけて封筒にじっと目を凝らした。
「あっ、それ!『KAIホールディングス』の新店舗!誠くん、オープン記念に招待されたの!?」
『KAIホールディングス』とは、業界を席巻する飲食店企画運営会社だ。新店舗の物件紹介を、不動産会社に勤める誠が担当したと聞いている。
「明後日の日曜日。『ご家族でどうぞ』って内田社長から誘われてるけど…どうする?」
美希は、手に持っていたグラスの水を一気に飲み干すと、勢いよく誠に飛びついた。
「行く行く、絶対行く!」