天秤女~恋は同時進行で~ Vol.1

天秤女~恋は同時進行で~:「婚活は、同時進行が基本でしょ?」強欲な26歳美女の大胆すぎる計画

「正直に言うと、私これまで、恋愛で苦労したことがほとんどないんです」

彩菜に初めて彼氏ができたのは、高校2年生のとき。それからは面白いほどモテまくり、大学卒業までに最初の彼氏を含めて8人の男と付き合った。周りを見ても、その数は多いだろう。

「だよね。彩菜ちゃん、超美人だし、モテるもんね」

相槌を打つ葵の方を見ると、いつのまにか笑顔が戻っている。その言葉には嫌味も込められているのだろうが、彩菜は気にしない。

大学を卒業して社会人になるときに、20代のうちには結婚しておきたいと漠然と考えていた。この美貌と若さが有効なうちに、その武器を最大限に生かして、最高のパートナーを選ぶべきだと思ったからだ。

彩菜は、卒業以来さらに5人の男と付き合ったが、一度も恋人が途切れたことはない。1年以上付き合った男もいれば、3カ月もたずに別れた男もいて、交際期間の長短はさまざまだった。ごく短期間ながら“被った”相手もいる。

「だけど、結婚相手にはいまだに巡り合えていません」

つまり26歳になるまで、13人もの男と付き合ってきたわけだが、いずれも「結婚したい」と思えるような運命の相手ではなかったのだ。

「20代のうちに、つまり29歳までに結婚するとして、あと3年の間にベストパートナーを見つけないといけないんです。でも、付き合い始めてから、見極める時間も必要ですよね」

「私は10年いても見極められなかったけど、たしかに、それでも最低1年…ううん、2年くらいは交際期間が必要かも…」

「葵さんの言うように、最低2年付き合わないとその相手がアリかナシか判断できないなら、20代のうちに結婚するにはあと3年だから…私は1人しか付き合えないことになりますね」

強引な計算だけどたしかにそうね、と葵は笑う。

彩菜は淡々と説明を続けた。

「だから私、同時に複数の男と付き合うことに決めたんです」

「え?今なんて言った?…二股ってこと!?」

「いえ、二人とは限りません。なんなら、三人でも」

口をぽかんと開けている葵に、彩菜はにっこりと頷いた。


次に付き合う相手とは、絶対に結婚したいと思っているのだ。

だが今すぐにひとりには絞れない。

これまで付き合ってきた男たちは、全員が最終的には、彩菜から不合格の烙印を押してきた。13人もの男と付き合っても、生涯のパートナーは見つからなかった。

単なる交際と違って、結婚相手を見極めるというのはやはり簡単ではないということだろう。

時間は一秒たりとも無駄にできない。ならば同時に複数と付き合うしかないではないか。

「でも…」

葵が急に声のボリュームを落として、耳打ちするように言った。

「同時に複数って、4人とか5人と付き合ってもいいってこと?…その、なんていうか、体がもたないんじゃない?」

「私、器用な方なので、うまくやってみせますよ。でもとりあえずは、3人くらいが目標かな」

彩菜がさらりと答えると、次の瞬間、葵は大笑いする。

「私、やっぱ彩菜ちゃん、好きだわ~。相変わらず変わってるわよね。離婚して落ち込んでたけど、彩菜ちゃんと会って元気が出た~」

葵の言っていることは、本音ではないだろう。それぐらい彩菜は気づいている。

もしかするとムカつかれているかもしれない。いや、ムカついているだろう。離婚直後の相手に話すようなことではないのはわかっている。

この後輩女はバカだな。ムカつくな。そう思いながら、また前向きに動き出してもらえばいい。

ー私は私で、やるべきことをやるから。

「ということは今、彩菜ちゃんは彼氏が3人いるわけ?」

「いえ、今はゼロです」

「えっ、じゃ、これから作るの?」

葵先輩はまた大笑いした。

ーこの場はこう言っておけばいい。

実際、彩菜はすでにひとり彼氏がいる。待ち合わせ時間の直前に突然「1時間遅れそう」と言ってくる男だ。

おかげで本屋に入り、13星座占いに出会うことになったのだが…。

その彼とは、付き合ってまだ3カ月。もちろん運命の相手かどうかなど判断できない。

しかし2年後は28歳だ。その時に「こいつじゃない!」となった場合、フリダシに戻りたくはない。そのためには、あと二人ほど同時進行の検討材料が必要なのだ。

「彩菜ちゃん、昔からそんなこと考えてたの?」

「考えたんですけど、実行に移すつもりじゃなかったんです。でも最近、あることが起きて心境の変化があって、背中を押された気になったんです」

「あることって?」

彩菜は13星座占いと新天秤座のことを話した。

「さそり座だと思ってたときは星座ってなんだかピンとこなかったのに、天秤座だって言われたらしっくりきたんです。大げさかもしれないけど、生まれ変わったような感覚というか、本来の自分を取り戻したような気分です」

彩菜は力強く宣言する。

「だから生まれ変わった気持ちで、今まで実行に移せなかったことも思い切ってやってみることにします」

「彩菜ちゃんって、とんでもない子ね。こんなこと言い出す子、初めてだわ」

クスクス笑いながら葵がつぶやく。彩菜は心の中で毒づいた。

ー婚活は同時進行が基本。賢い女だったら、みんなやってることよ。人には言わないだけ。

一方で、誠実に一人の男を愛し、結果さんざんな目にあってきた女性も多く見てきた。…現に、目の前にいる葵もそのうちのひとりではないか。

「でも…あんまり悪いことしてると、バチが当たるんじゃないかなあ」

葵は急に真顔になり、咎めるような視線で見つめてくる。

ー葵さんったら、そんな風に正直に生きた結果が、コレでしょ。なんて言われようと、私は私の方法で幸せを掴んでみせる。

男に選ばれる人生なんて、まっぴらごめん。そんなことは、自分のような女がすべきことではないのだ。

"男を天秤にかけてでも、最高の相手を選び抜く。"

それが、天秤座の女として再スタートを切った彩菜の決意だった。これから、数々の苦難が彼女を待ち受けているとも知らずにー。


▶Next:12月15日 日曜更新予定
彩菜が天秤をかける男たちとは、どんな人物なのか?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
13人と付き合って一度も結婚を考えられなかった…って、無い物ねだりとか、我慢が足りなかったりとか、熱しやすく冷めやすいとか、何かしら結婚に不向きな理由はありそうだけどね。
同時進行で解決するのかな…
2019/12/08 06:2997返信14件
No Name
私の周りにも、2〜3人天秤かけて同時に付き合って、そのうちの一人を選んで結婚していった人が何人かいた。
話を聞いたとき、ちょっぴり複雑な気持ちになったのを覚えています。
2019/12/08 05:0894返信6件
No Name
彩菜の言っていること凄くわかる。
23歳から27歳までつきあった人がプロポーズ直後に極度のマザコンと分かり別れ、27歳から28歳まで一年つきあった彼はまさかのマッチングアプリで遊びの女を漁っていたのを知り別れました。
もうまた数年付き合って見定めて30歳目前でふりだしに戻るのが嫌で、同時進行しています。相手には申し訳ないですが、誠実に生きて損するのは自分です。
一途に一人の彼氏を愛するも結婚しても
らえず5年つきあって34歳からふりだしに戻った先輩見てそう思いました。
2019/12/08 08:0585
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