今日は、5歳年上の先輩・工藤葵と、1カ月ぶりにランチの約束をしている。
彼女は、大人になって血液型がB型でなくA型だったとわかり、人生を見つめ直したという張本人だ。
葵に会ったら、これから天秤座として生きていくことにした、と報告するつもりだ。彼女の驚く顔が目に浮かぶ。
ところが、待ち合わせの『クリスクロス』に遅れて到着した葵は、彩菜が話しかけることを躊躇してしまうほどに、暗く落ちこんでいた。
「私、離婚したんだよね」
「えっ…」
現在31歳の葵は、1年前に結婚したばかりだ。21歳から付き合っていた大学の同級生と、交際9年目のときに結婚した。
だが1周年の結婚記念日を迎える前に離婚した、という知らせは、彩菜にとって寝耳に水だった。
原因はどちらかの浮気ではなく、性格の不一致だという。
「9年間も付き合って、そのうち3年は同棲していたのに、結婚したらたった1年で別れるなんて…。自分でもこんなことあるのかって思ってる…」
いつもは快活な葵の声も、今日は信じられないほど小さくて、彩菜はどんな言葉をかけていいかわからない。
「10年間も一緒にいたのに、見極めが足りなかったのかな…」
見極め。そう、見極めが大事なのだ、と彩菜は思った。
ー葵さんは、一途すぎたのよ。もっと器用に、うまくやればよかったのに。
他の男に目移りしたことぐらい私だってあるよ、と口では言いつつも、実際は彼女に浮気経験がないことを彩菜は知っている。
でもそれが不運だった。
10年間、同じ男といたから、他の男を知ることができなかった。見極めるにも選択肢が乏しかったのだ。
「彩菜ちゃんは、私みたいになっちゃダメよ」
葵はそう言って、精一杯笑ってみせる。
―はい。葵さんみたいには絶対なりません。
心の中だけで彩菜は答え、表向きは曖昧な笑顔で「そんなこと言わないでくださいよ」と返した。
「本当に、見極めが足りなかった…」
ランチ中、葵は何度もつぶやいていた。
その言葉もまた、ふんぎりのつかなかった彩菜の背中を押した。ずっと心の中だけで温めてきた計画を、やはり決行するときがきたのだ。
「彩菜ちゃんは、結婚相手は慎重に選ぶのよ。これは、失敗した私だからこそ言えるアドバイス…って、聞いてる?」
ついぼんやりと考え事をしていた彩菜は、葵の言葉にハッと我に返る。咄嗟に、本音が口をついて出た。
「大丈夫ですよ。私は絶対にうまくやってみせますから」
「え?どういうこと?」
少し苛立ちを帯びた顔で葵に尋ねられ、この際だから正直に話してしまおうと決めた。
「あの、今から言うことは、葵さんだからこそ話すんですけど…」
"あなただからこそ…"という、嫌われることなく味方を作りたい時に使う常套句。それを前置きに使い、彩菜は、温めてきた計画を初めて他人に話すことにした。
この記事へのコメント
同時進行で解決するのかな…
話を聞いたとき、ちょっぴり複雑な気持ちになったのを覚えています。
23歳から27歳までつきあった人がプロポーズ直後に極度のマザコンと分かり別れ、27歳から28歳まで一年つきあった彼はまさかのマッチングアプリで遊びの女を漁っていたのを知り別れました。
もうまた数年付き合って見定めて30歳目前でふりだしに戻るのが嫌で、同時進行しています。相手には申し訳ないですが、誠実に生きて損するのは自分です。
一途に一人の彼氏を愛するも結婚しても...続きを見るらえず5年つきあって34歳からふりだしに戻った先輩見てそう思いました。