惹かれ合う男女が永遠の愛を誓い、結婚する。
それは情熱的で、ロマンチックで、人生最大の盛り上がりを見せるまさに幸福の絶頂…!
しかし幸福の絶頂、つまり冷静さを欠く瞬間であるからこそ、一度立ち止まってみることが大切かもしれない。
結婚相手とは、これから何十年もの間つれ添い、人生を共にするのだ。
付き合って間もなく2年になるカップル・明久と絵麻も、記念日を目前に控え、そろそろ結婚を考えている。
しかし明久には、プロポーズをするにあたって、ある懸念事項があった…。
これは、それぞれの事情や不安を乗り越え、"幸せな結婚"をしようとする男女の物語である。
会社経営者・東條明久(34歳)の懸念
「すごい。このパンケーキ、絵麻が焼いたの?」
休日の朝。
シャワーを浴びてリビングに戻ると、ダイニングテーブルがまるでおしゃれなカフェのようになっていた。
パンケーキにサラダやフルーツ、それからスクランブルエッグとソーセージ。それらがすべて、ワンプレートに美しく盛り付けられている。
僕が感心した声を出すと、絵麻は嬉しそうに誇らしげな笑顔をこちらに向けた。
「そう。なかなか上手に焼けたよね」
「絵麻って、見かけによらず料理うまいよなぁ」
しれっと僕が言えば、絵麻が「見かけによらずって何よ」と頬を膨らませる。そんな彼女に僕は「冗談だよ」と笑う。
絵麻と過ごす、いつも通りの和やかな休日だ。
付き合って間もなく2年になる絵麻とは、この通り順調な交際を続けている。
見かけによらず…などと弄ったが、実際、絵麻は華やかな外見に反し非常に家庭的で、そんなところも含めて理想的な彼女なのだ。
絵麻は現在、28歳。一般的には結婚適齢期と言われる年齢だ。
そして僕の方も、4年前、30歳で立ち上げたマーケティング会社が軌道に乗り、拡大の一途を辿っている。
結婚も、考えていないわけではないのだが…。
「これね、ハレクラニのパンケーキミックス。ほらこの前、会社同期の夏菜子が結婚した話したよね?ハネムーンでハワイに行って、ハレクラニのスイートに泊まったんだって。…あ、ちょっと待って。写真見せる。すっごく素敵だったの!」
−しまった。
失敗した、と思ったがもう遅い。まさかパンケーキから同期のハネムーンに繋がるとは…。
そうなのだ。もうすぐやってくる、付き合って2年の記念日。
その日が刻一刻と近づくにつれ、絵麻からの「結婚するよね?」攻撃も激しさを増しており、僕はいよいよ決断を迫られている。
しかし僕には、どうしても結婚を躊躇ってしまう理由があった。