
煮沸 第二章:遭遇
「じゃ、先生、また来ます」
この季節にはまだ早いオーバーコートを工藤が手に取る。
「工藤さん。この後、どうされるんです?」
「橋上って、意識、戻ったんですよね?」
「ええ。ただ、まだ面会はこちらが話をするだけしか許可が下りていないと聞いています」
グラスに僅かに残った麦茶を工藤が飲み干す。
「ま、一回会っとくかな」
「会ってどうされます?」
「…まだ寝たきり?」
「ええ」
工藤が子供のような笑顔を見せる。
「じゃ、ちょうどいいや。先生、知ってます?私らが新人の時に教わる捜査の鉄則。”寝た子を起こせ”って言ってね、ハハハ」
「…」
「先生真面目だなぁ。ま、とりあえず顔を拝ませていただきますよ。大量殺人犯の顔なんてね、私ら刑事でも滅多にお目にかかれるもんでもないから」
「ご協力できることがあれば」
「あ、そしたら先生、祈っててくださいよ」
「何をです?」
「無事に姥捨て山から下山できますように、って。アハハ」
ーバタンッ
工藤が帰った後の静まり返った部屋で、
井口は自分の唇が渇ききっていることに気づき、麦茶にようやく口をつけ、思う。
ーさっきから感じている、この違和感は一体なんなのかと。
この記事へのコメント
工藤、かっこよすぎる!!!
最近東カレご無沙汰しておりましたが、これを読むために戻って参りました。
続きありがとうございます!!!