
煮沸 第二章:遭遇
「ま、わかったようなわからないような」
「橋上も大きな後遺症はなく意識が回復したと聞いていますから、今後、この推論を実証していくことになります。
ただ、君江人格という恵一を狂わせた元凶が殺され、実行犯ともいうべき大輔人格も、本来君江から恵一を守るための存在ですから、君江殺害とともに消えている。いわば、素の橋上恵一が残された状態で、どこまで真実を引き出せるか。
恵一としては、自分の意識に無いところで、色々事件が起こったわけですから」
「‥そういうもんなんですかねぇ」
工藤の声が小さく響く。
「先生、どうもね、私はなんかスッとしないんですよ」
「…例えばどこが?」
「例えばっていうんじゃないですが、なんとなくほら、よく言うでしょ、刑事の勘とかって」
「私はね、頭の出来がイマイチなもんで、見えるものしか理解できないんですよ、やったのは彼の中の別の人間だとか、そういうのがどうもね。
もう、”人殺しは、許さん”ってのじゃダメなんですかね」
「・・・精神鑑定医の見解としては、恵一はすべて精神疾患の中で犯罪を犯しています。
過去の判例でも、精神疾患状態における重犯罪には、情状酌量の判決が出ているのが実態です」
工藤が、驚く素振りをみせながら言う。
「参ったな先生、これから何年も駆けずり回る男に、お先真っ暗なこと言わんでくださいよ」
井口が問いかける。
「・・・本当に駆けずり回るんですか?」
工藤が立ち上がる。
「そりゃ先生。お給料いただけるくらいには、ね」
この記事へのコメント
工藤、かっこよすぎる!!!
最近東カレご無沙汰しておりましたが、これを読むために戻って参りました。
続きありがとうございます!!!