2019.11.23
煮沸 第二章 Vol.1
◆裁判所前
人は、真逆のものを好む。
心を裁く場所である裁判所の姿は、決して心を感じさせないように出来ているものだ。
直線に、心は宿らない。
入り口からスーツ姿の男たちが現れ、人だかりが一斉に動く。
.
「井口さん!ちょっといいですか?井口さん!」
無数のマイクが向けられる。
「橋上の精神鑑定結果は?もう意識は回復したんでしょ?」
「井口先生!」
「警察は何やってんですか!刑務所内での殺人も起こってるんですよ!」
護衛の警官が、カメラを掻き分ける。
「国民が求めてます!」
…人は、真逆のものを好む。
自分がまともであることの確認に最適なその事件は、自信を失ったこの国の人々に恰好の餌食となった。
一緒に車に乗った警官が、芝居を続けるマスコミ連中を見ながら言う。
「災難だなぁ、先生」
井口が額から流れる汗をぬぐう。
「研究室まで送りますよ」
◆警視庁刑事部
焦燥した精神鑑定医が映されたニュース番組を黒岩が消す。
「…橋上の意識が戻った。もう待てん。誰でいく?」
「わかりかねます、警視」
古びた壁時計の針の音が響き渡る。
「…鑑定は?」
「本人にはまだ。ただ…シロだろうと」
黒岩が椅子を蹴り上げる。
ーあと半年。
親の退任前に、未解決事件を残すわけにはいかない。
いや、この場合犯人は捕まっているので、解決というのとも違う。
ー納得だ。
大衆の納得する解は一つ、『死』だ。『死』が欲しい。
…しかしこの注目だ。火に油を注ぐやつでは困る。
ー”アレ”でいくしかないか。
黒岩がゆっくりと受話器をとる。
「橋上の件だ。”ウバセン”を呼べ」
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