200億の女 Vol.18

「あなたのことが許せない」。夫から秘密を打ち明けられた妻の、葛藤と決断とは

1カ月前


神崎潤一郎は、智が去ったばかりの社長室に大輝を呼び出し、言った。

「智が、君と離婚する、と言ったよ」

言葉を返せない大輝に構わず、潤一郎は、淡々と説明を続けていく。

小川弁護士と智の関係が怪しいという報告を受けて2人を問い詰めたところ、小川弁護士が自分の実らぬ片思いだと宣言したこと。その後、智に大輝の素性を問い詰められ、結果的に、智が離婚する、と宣言することになってしまったこと。

「…片思い、って、…その、つまり、社長の前で、小川先生が、智を好きだと宣言した、ってことですか?」

浮かんだ疑問をそのまま、たどたどしく口にした大輝に、潤一郎は、まあ、どこまで本音なのかはわからないがね、と答えて続けた。

「それより問題は、私がその後の智の態度に動揺したことだ。動揺して、場を上手くコントロールできなかった。そのことが、智の離婚宣言につながったのなら…大輝くん、君に申し訳ない、とは思うんだが…」

―この人が…動揺して場をコントロールできなかった?

この神崎潤一郎が動揺させられるなんて、一体どんな状況だったというのか?想像すらできずにいた大輝に、潤一郎がため息をついてから言った。

「私への報告を怠った大輝くんにも問題があるよ。

智が離婚したいと言った、と聞いても、君はなぜだ?という反応をしなかった。つまり、君には離婚を切り出される原因に心当たりがあった、ということになる。

それに、さっき、君の経歴の嘘を暴いて私を問い詰めた智の口調は、確信に満ちていた。それは、探偵に調査させた証拠で、君を問い詰め、告白を得たからだろう。皮肉にもそれは、私があの子に教えた方法だがね」

だろう?と聞かれた大輝は、その通りです、と、あっさりと頭を下げた。

「…なぜ、すぐに私に報告しなかった?」

「智にバレたことを自分の中で消化できていませんでした。それに智に時間が欲しいと言われたので…お義父さんの手を煩わせる前に、なんとか解決できるのではないか、という希望もありました」

それは大輝の本心ではなかった。

潤一郎が知れば、どう動くか分からない、そのことで智が傷つくのでは、という恐れが、報告を躊躇させていたのだが、大輝は正直に口にすることができなかった。

潤一郎のため息が深くなる。

「まあ、それは…智を思うが故のことだと信じよう。だが、私に報告していないことが他にもあるのでは?」

「…他に、ですか?」

「小川先生が、君に喧嘩を売ったと言っていた。彼は、私に、自分の気持ちを伝えたのは、大輝くんじゃないか、と疑っていたよ。自分の気持ち、というのは彼が智を好きだという気持ちを指すのだろうがね」

大輝は驚いた。まさか。

―あの男、そんなことまで喋ったのか?なんのために?

そもそも、雇われている会社の社長の娘に不適切な好意を抱いていることを宣言するなんて、デメリットしかないはずで、自分の立場を危うくするだけなのに。

―まさか、…それ程、智に本気だ、とでも?

不快な苛立ちがこみ上げたが、平静を装い、大輝は言った。

【200億の女】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo