「おー優作!生還したな!おめでとう!」
「栃木から大手町か!軽くカルチャーショック受けそうだよなー」
仲間たちが半ば茶化すように声をかける。気づかぬ間に恵比寿なんて洒落た街に通いつめるようになった圭介の提案で、『焼肉鳥 ジジ』で男5人が久々の再会を果たしていた。
「いやいやいや、栃木にいたのはたったの4年で、成城にいたのが24年間だから、つまり85.71…、俺の人生のおよそ85%は成城でできてるんで」
僕は彼らに対して闘志は燃やすが、よくあるマウントの取り合いとはまた違う。“切磋琢磨”という言葉がピッタリだろう。
さらに言えば昔から僕は集中していると周りが見えなくなるタイプなので、彼らのおかげで僕の指標となる、そもそもの“平均”を知ることができるのだ。
「でもまあよかったじゃん、ロボットできるんだろう?」
「そうなんだよ。5年目にしてようやくチャンスが巡ってきた」
少し前傾姿勢になっていると、聡が指摘してきた。
「おい、優作、ボタンとれかかってるぞ」
僕は辛うじてポロシャツとボタンをつなぐ、その糸をブチっとちぎってポケットにねじ込む。
「変わんないなぁ、優作は」
「そりゃあそうだろう。たった数年でパーソナリティが揺らいでいたら、そいつこそやばいぞ」
僕の中で、ロボットに対するプライオリティはいつまでたってもNO.1なのだ。
4人の職業は、外銀や外コン、総合商社など。“平均以上をキープする”という自分のこだわりは、唯一、年収においては守ることができなかった。
しかし僕は“ロボットをやりたい”という思いを捨てることだけはできなかったのだ。
「…優作って、結婚とか考えたりすんの?銀行員ってけっこう早くて、もうラッシュでさ、俺、早くも取り残されそう」
「いや、ないな、全く」
「そうか、優作はロボットか」
「俺考えるわー。今の彼女かな?くらいは」
4人が地球の裏の話ではなく、自分事として話し始めたことに内心驚きを隠せない。しかもこの常識人4人が、だ。
「でも優作もチャンスじゃん?栃木に比べたら出会いもあるだろうし」
「お、おう…」
都築さんの“下山”という言葉を再び思い出す。
―俺が山にこもっている間に、俗世間はそういう流れになっていたのか!?
そこへ、外銀に勤めている圭介が衝撃の一言を放った。
「なぁ、大毅って覚えてる?」
なんて忌々しい名だ。大毅とは、男子校にもかかわらず彼女を作り、バンド活動に勤しんでは、文化祭や体育祭で他校の女学生とカメラに向かってピースサインを送る、天性のチャラ男。
それだけならなんてことはないのだが、たまたま実家が近いがために腐れ縁のようになってしまい、学生時代は予習や課題のすべてを頼られ随分と振り回されてしまった。
当然東大には落ち一浪の末、慶應に入るという結末を辿ったので、東大卒が標準スペックである僕はしばらく存在を忘れかけていたのだが、外銀に入ったという噂を親経由で聞き若干気にもなっていた。
「あいつがさー、結婚するらしいのよ。相手、まさかの同期。驚くよなぁ。見直したよ」
受験も、就職も楽にとは言わないが成功を収めてきた。気づかぬうちに主戦場は“結婚”に移っていたのだろうか?他4人の目が一様にそう物語っているように見えてならない。
―ったく、よーいドンの笛くらい吹いてくれよ。
そして、“平均以上をキープする”というミッションがかすかに動き出す予感がしていた。
▶Next:10月21日月曜更新予定
チャラ男の大毅が結婚。優作は“既婚者”の威力をまざまざと見せつけられて…?
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この記事へのコメント
主人公も高偏差値の男子校病な感じよく出てる!笑
なんだか親近感の持てる連載で楽しみです!