「おめでとうございます!東先輩とご結婚されるんですね。羨ましいです」
夢のようなプロポーズから1ヵ月が経ったある日、紗奈は会社の後輩である今井美雪からランチに誘われた。
そこで半ば美雪に促されるようにして、プロポーズされた話や来年5月に控えている結婚式の予定について話した。
「ありがとう!実は、プロポーズされてからすぐに式場の見学に航平が行こうって誘ってくれて...。1軒目に行ったお台場にあるチャペルが気に入って即決めたの」
美雪は航平と同じ部署で働く26歳。根っからの妹気質な彼女は親しみやすく人懐っこい。
彼女が入社1年目のとき教育係を任されたのが紗奈だったため、今でもたまに美雪の方からランチに誘ってくる。
いつもモノトーンの服ばかりの紗奈とは対照的に、美雪は季節を問わずパステルカラーのワンピースを好み、その裾から覗く白い脚が紗奈にとっては眩しく映る。
「美雪ちゃんは、好きな人とかまだいないんだっけ?」
自分の話をするのが気恥ずかしくなった紗奈は、食後のコーヒーを口にしながら美雪に話を振る。
「いないですよ~。うちの会社まだベンチャーだから人も少ないし出会いもないし。私も東先輩みたいな彼氏がほしいな。仕事ができて野心があって、おまけに優しいしおしゃれ。付き合ったらレディファーストを徹底してくれそうだし」
お世辞だとは思いつつも、美雪の指摘がすべて的中していることに紗奈は嬉しさを隠せなかった。
「ありがとう、そう言ってくれて。今でも航平と結婚できることが信じられなくって...」
「いや~だって、紗奈さんはしっかり家を守る奥さんになってくれそうですもん。東先輩に見染められたんですよ」
美雪はそう言ってくれるが、紗奈は3歳年下の航平が、自分なんかにプロポーズしてくれたことに、まだ自信が持てないでいる。
「そうかな...私なんかでいいのかなって思ってて。この機会に航平に喜んでもらえるような素敵な奥さんになりたいなと思ってる。だから最近、会社帰りに料理教室に通いはじめたの」
「いいですね! 私、料理全然できないんですよね。今は美味しいタイ料理のお店を見つけるのにはまってるんです。タイカレーとかガパオとか・・・私も自分で作れるようになりたいなあ」
そんな他愛のない話をしながら、店を出て美雪と会社に戻る。
航平と美雪が働く部署は、紗奈が働く部署のひとつ上の階にある。
付き合っていることは公然の秘密となっているが、結婚することは今回初めて話したから、広まるのも時間の問題かもしれないと紗奈は考えるのだった。
この記事へのコメント
最初から出てくる後輩女性は怪しいでしかない。笑