200億の女 Vol.15

「あなたの奥さんが好きです」。初対面の男から、妻を奪うと宣言された夫の悲し過ぎる夜

あっさりと聞かれ、呆気にとられる。

まるで、好きな食べ物は何ですか、という質問のような軽いノリ。俺の反応を楽しんでいるような、からかっているような、場に不似合いな屈託の無い笑顔に苛立ちが増す。

―無神経すぎるだろ。

そんな相手に、これ以上取り繕うことがバカらしく思えて、俺はため息で呼吸を整えてから言った。

「あなたは随分不躾だし…単刀直入がお好きなようなので、僕もそうさせてもらいますね」

嫌味を含ませた言葉にも、ただニコニコと頷くだけの小川さんに、質問を吐き出す。

「小川さんと妻が、何の、どんな仕事をしているのか、知りたいのは本当です。元々あなたの事務所は義父に雇われたはずだし、今の智に弁護士が必要な案件があるとは思えない。いつから、どのような仕事で妻と一緒にいるのか教えてください。

それから…さっきあなたは、僕が妻とあなたの男女関係を疑っている、とおっしゃいましたが、僕は妻があなたになびくとは思っていません。そもそも智は…私の妻は、不毛な関係を選ぶ人ではないし、あなたは妻が最も苦手とするタイプの男性だ。

ただ、あなたはとても妻に肩入れして…いや、肩入れしたフリなのかな。僕を挑発してる。その気持ちは何ですか?人のものが欲しくなる性癖?火遊びの相手を探したいなら、別で探してください」

興奮を抑えながら一気に言い切った。するとそれまで黙って聞いてた小川さんが、フゥ、と小さなため息をついて言った。

「…期待はずれで、つまらないな」

呟かれた言葉に耳を疑う。

「今、何と?」

「もっと面白くて、賢い人だと思ってたんですけどね…ご主人のこと。がっかりです。それでよく奥様のこと、何年も騙してこれましたね」

「…騙したって…」

―なぜ、それを?

動揺が口に出てしまった俺を気にする様子もなく、小川さんは続けた。

「自分の思いこみだけで世界を構築して、自分の理想の妻像を作り上げているあなたには、奥様が…智さんが、本当に何を望んでいるかなんて想像もできないんでしょうね。智さんが可愛そうだ」

―智が本当に何を望んでいるか…だと?

なんでそんなことを、初対面の男に言われなければならないのか。怒りのおかげで動揺が落ち着き、俺は小川さんを睨みつけ、唸るように言った。

「…智のことは俺が、誰よりも一番わかってますよ。それに人の妻を、気安く名前で呼ばないでもらえますか」

俺のその指摘には答えることなく、小川さんは、そういえば、と話題を変えた。

「さっき、智さんは僕みたいなタイプが最も苦手、っておっしゃいましたけど、僕はどんなタイプに見えているんでしょうか」

軽さが戻ったその声に、いちいち苛立ってしまう。苛立ちのまま、俺は言葉を選ばず言った。

「その、嫌味な程のルックスの良さに弁護士という肩書きがつけば、女性は放っておかないでしょう。よりどりみどりの遊び人。まあいかにも、モテるタイプですよね。チャラさを見せず、常にスマートに振る舞おうとするのがまた嫌味だ」

わかりやすく棘を込めたのに、小川さんは、まあ確かに、と平然と頷いた。


「女性に囲まれて生きてきたことは否定......


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