付き合って2年になる梓と祥吾は、お互いに結婚を意識する仲のはずだった。
しかし、ここ最近は結婚に踏み切るどころか、完全なるマンネリモードに突入気味。
このまま別れてしまうのか、それとも結婚へと向かうのか。倦怠感を打ち破るキッカケ探しに奮闘する梓。
はたして、2人の今後は…?
薄暗い映画館の中で梓は、隣に座る祥吾のことを少し遠く感じていた。
それもそのはずだ。梓と祥吾の間には、ソルトとキャラメルのハーフ&ハーフの巨大なポップコーンが我が物顔で陣取っている。
付き合い始めた2年前は、真ん中の手すりを跳ね上げて映画の間じゅう互いの手を握り合っていたのに。
このところ2人は映画館の中だけではなく、デート中に歩いている時すら手を繋がなくなりつつあるのだった。
―なんでだろう。なんだか最近、祥吾がどんどん冷たくなってきてる気がする…。
楽しみにしていたはずの映画は、気がつけばいつのまにかエンドロールが流れ始めている。
祥吾は流れる文字にはまるで興味がなさそうに大きく欠伸をすると、梓の耳に唇を寄せて「じゃ、帰ろうか」と囁いた。
土曜日の22時。
きっとこの後は、祥吾の運転する車でいつものように目黒の自宅に送られ、キスもしないまま素っ気なく解散するのだろう。
梓の胸が、チクリと痛む。
これが倦怠期というものなのだろうか?そうだとすれば、片方だけに気持ちの残っている倦怠期は、なんて辛いものなのか。
その一方で、長野の両親からの結婚へのプレッシャーは、梓が30歳の誕生日を迎えて以来強まるばかりだ。今月は、業を煮やした母親から、お見合い話を持って上京すると宣言されている。
大手メーカー勤務で1歳年上の祥吾に会ったら、きっと両親も安心してくれるはず。
そう考えて梓は、プレッシャーをかけられる度に「付き合ってる人はいるから」と逃げ続けてきたのだった。
でも、もしかすると…両親に祥吾を紹介できる日なんて、いくら待っても来ないのかもしれない。
そんな不安が日増しに色濃くなっていた時、梓にある転機が訪れるのだった。