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  • 「もう、私に興味ない?」あんなに情熱的だった彼が、そっけなくなってしまった理由とは

    月曜日、先輩からの指摘


    「梓ちゃん、大丈夫?」

    ボンヤリと中空を見つめる梓の肩がふいに、ツンとつつかれる。

    「あっ…すみません、麗奈さん!打ち合わせ中なのに、ボーッとしてしまいました…」

    「ふふ、いいのよ。楽しい週末を過ごした後の月曜日は、誰だってボーッとしちゃうもの」

    そう言って大輪の薔薇のように優雅に微笑むのは、梓が勤めるマーケティング会社の先輩・麗奈だ。

    36歳らしい大人でラグジュアリーな美貌を持つ麗奈は、梓の入社以来憧れの存在でもある。

    梓はその美しさに改めて見とれながら、大きなため息をついた。

    「楽しい週末だなんて…全然です。その真逆ですよ…」

    梓が自虐的に笑ってみせると、麗奈は心配そうに眉根を寄せる。

    「もしかして、彼とうまくいっていない…とか?」

    梓は、伏せていた顔をハッと上げた。

    「どうして分かるんですか!?」

    「なんとなくね。最近の梓ちゃんを見てたら、そうなんじゃないかな〜と思ったの。だって梓ちゃん…最近ちょっと“手抜き感”あるから」

    「手抜き…ですか?」

    食い入るように麗奈を見つめる梓に、彼女は匂いたつように艶やかな微笑みを浮かべる。

    「彼と付き合い始めたころの梓ちゃんは、いつもオシャレを楽しんでいて、毎日キラキラ輝いてた。今日みたいにね。でも…最近は無難にまとめてはいるけれど、気の緩みが出てると思うわ。オフィスでバレちゃうくらいなら、多分休日はもっとオフモードなんじゃない?」

    梓は慌てて、自身の最近のファッションを振り返る。今日は夜に会食が入っているため、たまたま最近購入したピンキー&ダイアンのニットアップを着ているが、何も予定のない平日は、確かに忙しさを理由にオシャレをさぼっている自覚はある。

    それに、週末の祥吾とのデートでのファッションは、ゆったりしたワイドパンツにオーバーサイズの白いTシャツだった。旬のコーデのつもりだったが、夜の映画デートでリラクシングな格好をしたかった…という気持ちが無かったといえば嘘になる。

    思えばここ最近、祥吾と会う休日はいつも“楽さ”を重視していた。そのことに初めて気付かされた梓は、顔面蒼白になりながら麗奈に向かって何度も頷くしかないのだった。

    梓の様子を見ていた麗奈は、クスッと可笑しそうに笑うとゆったりとした口調で語りかける。

    「私ね、主人のことを尊敬してるのよ。小さいけれど会社の経営者として頑張っている主人は、私にとっては最高の人よ。

    だから私、いつも主人に似合う素敵な自分でいたいって考えてる。自分が自分らしく、常に美しくいることで、主人に愛情を伝えてるつもりなのよ」


    少女のようにはにかむ麗奈の姿は、確かに美しい。深いワインレッド色のボウタイブラウスが、白く滑らかなデコルテを一層引き立て、麗奈の大人の女性としての魅力を存分に引き出していた。

    きっと今日も、ピンキー&ダイアンの洋服だろう。梓がピンキー&ダイアンを好きになったきっかけも、憧れだった麗奈が愛用していると聞いてのことだった。

    梓は麗奈の哲学に軽い感動を覚えながらも、祥吾と出会った頃のことを思い出す。

    祥吾と出会った食事会。初めてのデート。初めての旅行…。

    いつだって祥吾と会う前は、「可愛い」と言われたい一心で、長い時間鏡の前で洋服選びをしていたはず。それなのにいつのまにか、そんな気持ちはすっかり忘れてしまっていたのだ。

    そして梓は、今自分が着ているニットアップに手を当てながら息を飲んだ。

    食事会で着ていたピンキー&ダイアンの華やかなセットアップを「可愛い格好してるね」と褒められたのが嬉しくて、デートの時はいつも、このブランドの服を着ていた。

    ドキドキしながら時間をかけて服選びをしていた頃が、はるか遠い昔の事のように感じた。

    「梓ちゃん、めちゃくちゃ可愛い−」

    くしゃくしゃな笑顔で照れながら梓を褒めてくれたあの頃の祥吾の姿が、はっきりと頭に浮かぶ。

    途端に梓の心には、なぜだか不思議と泣きたいような気持ちが押し寄せてくるのだった。

    ―変わったのは祥吾じゃない。祥吾のために可愛くなりたいと思わなくなった、私の方だったんだ…。

    大切なことに気づいた梓の元に、麗奈のピンヒールが近づく。

    「梓ちゃん、手抜きは許さないわよ。今週末、時間があるんだったら本気でお買い物してきなさい」

    麗奈はそう言って、ブラックのアイライナーでシャープに縁取った目でウインクをした。

    「は…はい!」

    見つめ合いながら向かい合う2人は、どちらともなくこらえきれなくなったように笑い出す。

    クスクスと肩を揺らす梓の表情は、先ほどまでとは別人のようにスッキリとしていた。

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