1ヶ月間の導入研修は、それなりに怒られるポイントが用意されており、「学生」と「社会人」の違いを幾度となく教え込まれる場面が設定されていた。
同期と一緒に怒られ、会社の定刻である9時から17時30分まで指示に従って動いていれば、1日が終わっていく。
そして、ようやく迎えた研修最終日。教育担当者からの激励と共に、解散となった。
「それでは、研修も今日までだ。来週からは各々の事業所で、OJTがつく。担当以外にも様々な先輩や上司と積極的に関わって、業務に取り組むように。期待しているぞ。」
教育担当者は、少し目を潤ませながら熱く語りかけてきたが、楓は冷静だった。東京勤務のため、来週からも丸の内のオフィスに出社する予定だ。
しかし同期で仲の良い明日香と詩織は共に大阪配属となったため、楓は寂しさを感じていた。
「明日香と詩織は一緒で良いなぁ。」
そう呟く楓に対して、2人は口々に言う。
「え~、このまま東京で勤務する楓が羨ましいよ。」
「ほんとほんと、いわゆる“丸の内OL”じゃん。いい出会いもありそうだし、プライベートも充実しそうだよね♡いい人いたら、紹介してね!」
そして3人で笑い合いながら、口々に言った。
「研修とかでも集まれるだろうし、関西にも旅行に来てね!連絡取り合おう。」
「私たち、これから頑張ろうね。」
こうして、いよいよ来週から始まる本格的な社会人生活に気持ちを切り替えていった。
◆
そして迎えた、配属初日の月曜日。
―初日なのに、始業ぎりぎりで行くのも印象良くないかな。
そう思った楓は、始業時間の15分前、8時45分にオフィスへと到着した。
「おはようございます」
研修で学んだように、新人らしく明るめのトーンで挨拶をする。始業15分前だったが、既に多くの社員たちが席についてパソコンに向かっていた。
「桜田さん?」
楓のもとへ、ヒールの音を鳴らしながら1人の女性がやってきた。
「はいっ」
緊張しながら挨拶をすると、彼女はこう言った。
「おはよう。今日からあなたのOJTを担当することになった瀧本よ。よろしくね。」
彼女は恐らく30代半ばくらいだろうか、どことなく感じる、キャリアを順調に積み重ねてきた女のプライド。タイトなワンピースにレッドソールのハイヒール、かきあげた前髪からのぞく、端正な顔立ち。
その存在感にやや圧倒されながら、「よろしくお願いします」と言ったのが、瀧本さんとの最初の出会いだった。
この記事へのコメント
ならPC立ち上げて仕事ができる態勢にしておくのは当たり前。
コメント欄の方々は皆さんもう社会に出てしばらく経っているので「時間内にやることやれていればOK」というスタンスですが(私も普段はそう)、まだそれすらできない超新人なのであれば、あと15分早く来ればいいだけですし、もう少し素直になってみてもいい気がしてしまいました。仕事を覚えるまでは、やはり周囲も「成果」より「やる気(=少し早めに出社など)...続きを見る」を見てしまうだろうし、従業員の多い大手ならなおさらかと。
もちろん繰り返しになりますが、仕事を覚えてからは「成果」を出していればどんな働き方でもよいだろうとは思います。
9時から準備するなら遅くない?て思うけど。