「お前は、何もできないから黙ってろ」夫から奴隷のような扱いを受けても別れない30代妻(3/3)[東京カレンダー

「もう10年以上をこの関係性で過ごしていますから、今さら夫が変わることはないでしょうね。そう思ったら正直、未来に絶望します。私は永遠に、奴隷のような扱いをされたまま生きるのか…って」

「絶望」という言葉を口にした久美子の瞳は暗い。

しかし彼女の声色からは、「どうにかしよう」という意志は感じられない。

仕方のないことだと諦めている様子で、モラハラ夫から離れようという考えすら浮かんでいないようである。

「別れるべきだって、友人にもそれとなく言われました。でも私は…夫の言う通り、外で働くなんて無理です。早々に結婚を決めたのだって、仕事なんかしないで家にいたいと思ったのもあるんです。それに子どももいて、これから学費だってかかるし…」

久美子は途端に饒舌になり、自分が夫と別れられない理由を次々と並べ始めた。

「離婚なんかしてシングルマザーで子どもを育てるなんて…その苦労を考えたら、夫の暴言に耐えている方がよっぽどマシ。理不尽に虐げられるのはもちろん嫌だし、その最中は本当に絶望しますけど。ただ、夫の方も、言いたい放題言った後は満足するのか、反省しているのか…優しい言葉をかけてきたりもするんです」

そう言って、久美子は弱々しく笑う。そして最後には、夫をフォローするような発言で締めくくるのだった。

「悪い人じゃないんです。ただちょっと子どもっぽくて、すぐにカッとなってしまうだけ。彼を怒らせないよう、私がうまくやれれば済むことなんです。それに、こんな彼を理解してあげられるのは、きっと私だけだし…」

彼女自身は、自分だけが夫の理解者であり、自分が我慢しさえすればそれでいいのだと心から信じているようなのだ。

そんな風にして久美子がモラハラを許してきたからこそ、夫はどんどんつけ上がり、ここまでエスカレートしてしまったのだろう。

その根本に気づくことなく、正確に言うと気付こうとしないまま、久美子は力なく立ち上がった。

妻を監視しているモラハラ夫から、いつ電話がかかってくるかわからない。家以外の場所に、長居は禁物なのだ。

そうして、いそいそと彼女は帰路についていった。

▶NEXT：9月21日土曜更新予定
「私が稼ぐから大丈夫」世帯主となった女の後悔