夫に感じた、突然の異変
「なんでだろう…」
二人に聞かれためぐみは、ドキッとした。これまで気にしてこなかったが、よくよく考えてみれば、最近の弘樹の行動を全く把握していないのだ。
海外出張なら、免税店や現地の限定商品など頼みたいものもあるが、国内出張ならお土産も期待出来ない。
半年前、国内ならいちいち行き先を報告しなくて良いと言って以来、弘樹も「出張」としか言わなくなった。
平日の夜もかなり遅いが、「飲み会」「会食」としか言わないし、土日も「ゴルフ」か「出かける」のどちらかだ。
誰とどこに行っているのか、何一つ知らない。
「弘樹さんがどうとかじゃなくてさ…。一般論として、その状況で浮気してても全然分からないじゃん?」
−弘樹が浮気…!?まさか。
千春の言葉に、めぐみの視界が一瞬グラリと歪む。
だが、彼女たちの言うことにも一理ある。“亭主元気で留守が良い”と、心の底から思っていたけれど、最近は、夫の不在に慣れ過ぎていたかもしれない。
「今日は家にいるらしいから、帰ったら出張のこと、聞いてみるわ」
その後もめぐみは、二人のハッピーオーラに付いていけず、かと言って愚痴をこぼすのも憚られたため、適当に愛想笑いしながら時が過ぎるのを待った。
ディナーを終えたのは20時半。普段ならもう一杯お茶でも行こうとなるところだが、「樹里も妊婦さんだし。早く帰りなよ」と、早々に切り上げて自宅へと急いだ。
「ただいま…」
めぐみがリビングに入ると、ソファで読書をしていた弘樹が「早かったね、おかえり」と振り向いた。
テーブルには、夕食に食べたと思しきハンバーガーの紙袋が置きっぱなしにされている。
「そ、そうなの。樹里が妊娠してるから、いつもより早く終わったの」
素知らぬ顔で答えながら、彼の様子を注意深く伺う。
スマホもテーブルに堂々と放置されており、何かを隠している様子はない。
弘樹は、「そうなんだ」と素っ気なく答えると、再び本に視線を戻した。
普段と変わらないように見えるが、どうしても先ほどの疑念が拭えないため、ちょっとした賭けに出てみることにする。
少し前までなら、めぐみが弘樹の隣に座ってもたれかかると、彼はすぐに「おいで」と肩を抱き、そのままイチャイチャし始める…というのがお決まりのパターンだった。
これまで、めぐみが断ることはあっても、弘樹から断られることなんて一度もなかった。
−ちょっと疲れているけれど仕方ない…。
色っぽいワンピースも着ていることだし、と気合いを入れてソファに近寄ると、予想外の出来事が起きた。
「俺、寝室で本読むわ。ここ使って良いよ」
そう言って、弘樹はさっさと寝室へと向かってしまったのだ。
−ま、まさか。クロなの…?
彼の背中を呆然と見つめながら、めぐみは夫の異変に初めて気づいたのだった。
▶︎Next:9月10日 火曜更新予定
夫・弘樹に感じた、異変。彼は、クロなのか…?それとも他に理由が…?
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この記事へのコメント
愛想つかされると、まず浮気疑うよね。
なんで、自分の態度が相手に影響を与えるって思えないのか、本当に不思議。
しかも自分から文句を言ったりすることはなく、とにかく態度だけが変わっていって、そこから持ち直すまでにけっこう苦戦しました。
主人公は取り返しつかなくなる前に気づくといいですが。