2019.08.06
港区モード Vol.11
「こんばんは、ご無沙汰してます」
店に入ってきた男性に、涼平が会釈する。つられて私も、ぺこりと頭をさげた。
一人で入ってきたその男性から「彼女?」と聞かれて、涼平はすぐに否定する。
カウンターの、私たちから少し離れた席に座った彼に、涼平が矢継ぎ早に言葉を繋げた。
「先日はありがとうございました」とか、「あの時泣いてた子、お陰さまで元気になったみたいです」とか、「あれ、今日の時計もカッコイイですね」などと、さっきまであんなに黙りこくっていたのが嘘のように、涼平は口を動かし続けた。
特に、時計好きの涼平は、彼の腕に巻かれている時計に興味を持ったようだ。
「ゼニスですよね?なんか、自分の中の男を目覚めさせてくれそうな時計ですね。いいな」
涼平の妙な例えに、男性は口元を緩めて優しげな笑顔を向けてきた。その姿はとても上品で色気がある。
「ねえ、あの人、何者?どういう関係?」
ようやくこっちに向き直った涼平に聞いてみた。
「何か、この辺で有名な人なんだよ。この前、会社の同期たちと飲んでる時にもたまたま会って、その日もさ、まさに今日みたいな状況で超落ち込んでる女の子がいたんだけど、あの彼と話してたらその子、すっかり自信取り戻して元気になったんだよ。言ってること、俺とそんなに変わらないと思うんだけどなぁ〜」
少しだけふざけた調子の涼平を横目に、私はもう一度、その彼の方をちらりと覗く。
視線に気づかれたのか目が合ってしまい、私はもう一度ぺこりと頭を下げた。すると、とても優しい目で私を見ながらきゅっと口角を上げて、頷くように首を小さく縦に動かした。
そのゆったりとした仕草と頷きは、無言のうちに「大丈夫」とでも言われているように、私に錯覚させる。
— 大丈夫 —
それは、まるで魔法のように私の心を少しだけ温め、明るく照らした。
私は、ずっと手をつけていなかったワインに手を伸ばし、ゆっくりと喉を潤した後、呟くように言った。
「私、なんか分かるな。涼平とあの人の違い」
「え、何。教えてよ」
予想通り、涼平はぐいと体を寄せて聞いてきた。
「涼平がもし同じこと言ってても、それが女の子に響かない理由。それはね、説得力がないの。同じこと言ってても、その時の仕草とか雰囲気とかで、相手への伝わり方って変わるんじゃないかな」
私が言うと、涼平はいまひとつ納得できないといった様子でこう聞いてきた。
「それってつまり、どういうこと?どうすればいいの?」
「うーん…」
私も考え込んでしまい、二人で同時に彼を盗み見る。
「どうするっていうか、きっと、滲み出る“品格”じゃないかな。大人の男の、品格」
私の言葉に、涼平は「なんだよ、その曖昧な答え」と不貞腐れたように言いながら、グラスに残っていたワインを一気に喉に流し込んだ。
「たぶん、言葉だけで語らず、女性に自信を与えてくれる男の人、ってことよ」
私がそう言っても、涼平はやっぱりまだピンときてない様子だ。でも私は涼平に言いながら密かに、胸の内が軽くなっていくのを感じた。
私が今日別れてきた男は、私に自信をくれるどころか、むしろ自信を奪っていった。沢山の嬉しい言葉をくれたけれど、そこに中身は伴っていなかった。
― そっか、そういうことか…。
小さく呟いた私を、涼平が不思議そうな顔で見てくる。
「え、何急に笑ってんの?」
そんなことを言われて私は、「笑ってないし」とムキになったふりをした。
今日はもう家に帰って、ベッドでぐっすり眠ろう。
次は、自分に自信をくれるような男の人を好きになろう。
25時の西麻布で、私は密かにそう決めた。
▶Next:8月13日 火曜更新予定
真っ白なコーディネートに映える腕時計の、港区モード。
今週の港区モード:「ゼニスの『デファイ エル・プリメロ 21 カーボン』」
年齢をどれだけ重ねても、好みは変わらない。ひとりバーで味わうブランデー、そして高級ながら品のある車や時計。
そんな男の腕元には、こんな一本がよく似合う。1/10秒の計測を可能にしたゼニスの名作クロノグラフムーブメント〈エル・プリメロ〉が誕生したのは1969年のこと。
時計業界に金字塔を打ち立てたこのレガシーを受け継ぎ、半世紀後の今年発表されたのが、1/100秒まで計測可能なクロノグラフムーブメント〈エル・プリメロ9004〉を、軽量性と耐久性とを兼ね備えたカーボンケースに搭載する『デファイ エル・プリメロ21 カーボン』だ。
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
それの最たるがモラハラ男なのかな。
自分に自信を与えてくれる人、大事にしたいです!
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