…人気のない校舎の裏側で、美緒がこっそりラブレターを手渡している瞬間を。
しかもその相手は、私が想いを寄せていた同級生。忘れもしない。宮本輝之という名の、ジャニーズ系イケメン。
…それは、完全な裏切りだった。
明言したことはなかったかもしれないが、彼女は私の想いに気が付いていたはず。美緒は私が彼を好きだと知っていながら、抜け駆けしたのだ。
大人になってから振り返れば“若気の至り”と笑えても、当時、思春期真っ只中で受けた衝撃は計り知れない。
そして結局、宮本輝之は美緒にころっと落ちた。
しかし妙に大人びていた私は、彼女をあからさまに無視したり、友達をやめるような真似はできなかった。
ただそれ以来、私は美緒に対し、拭い去れない対抗心を抱くようになってしまったのだ。
とはいえ、大学に進学してからの私はというと、華のJDライフを存分に満喫していたし、もともと(恋愛以外)器用な私は就職活動も順調で、第一志望の人気企業への入社も叶った。
毎日楽しく、充実していたから、はっきり言って美緒のことなんかすっかり忘れていたのだ。
だが不意にポストに届いた同窓会の案内状が、私の苦い記憶を呼び覚ました。
立場逆転
週末を使って開催された、同窓会当日。
午前中に溜まった家事を片付けると、午後からは予約していたネイルサロンへ。そして夕刻の新幹線で、私は金沢へと向かった。
北陸新幹線の開通ですっかり様変わりした金沢駅の鼓門を抜け、タクシーで香林坊に降り立つ。
案内状の地図に記載された店は、高校生の頃にはなかったショッピングセンターの中にあった。
「あれ…千明だよね?」
「千明だ!なに、ちょっと。セレブ感すごくない?」
会場であるイタリアンレストランのエントランスを抜けると、店の奥で私を呼ぶ声がした。
“セレブ感”だなんて。その田舎臭い表現に苦笑いしつつ足を進める。
するとそこにいたのは…瑞々しかったかつての同級生ではなく、ひと回りどころかふた回りぶんの贅肉と図々しさを蓄えた、中年の女たちだった。
「えーっと…」
驚きを隠せず、皆の顔を見渡しながら必死で記憶を辿る。確かに面影はある。しかし全員がもう別人の風貌だ。
こんなにも変わってしまうものだろうか。たったの…15年で?
そして…次の瞬間。その中に紛れた一人の女性の姿を認め、私は思わず目を見開いた。
「もしかして…美緒?」
私の問いかけに、彼女は刹那、真顔になったように見えた。しかしすぐに頬を緩めると、懐かしい笑顔で応える。
「そうだよぉ。千明、久しぶりねぇ」
語尾を伸ばす、甘ったるい話し方は相変わらずのようだ。
しかし笑顔になると、否応なく目立つ目尻のシワが気になる。それだけじゃない。声の響きも笑い方も、高校生の頃とはまるで印象が異なっていた。
かつて学校一の美女と言われた沢田美緒の面影は、今やどこにもない。
今目の前にいる美緒は、まるで輝きを失った宝石のよう。その価値を見失い、その他大勢に完全に紛れてしまっていた。
この記事へのコメント
千明は今の美緒をバカにしてたけど、家庭を持って家族を支えることに幸せ感じる美緒にしてみたら穏やかな幸せを30過ぎても知らない千明のほうが哀れに見えるかもしれないです。
生活してる場所や環境で価値観はどんどん変わって...続きを見るいきますからね。
女同士は立場や環境が変わると自然と疎遠になるからね。。。今後どうなってくのか楽しみです!