2019.07.10
もう1人の私 Vol.1共感性の低い、冷酷な夫
雄一と結婚したばかりの頃は、彼の勤勉さやストイックなライフスタイルを愛おしく思っていた。
いわゆる“外銀”という厳しい業界に長年身を置いている彼を心底尊敬していたし、攻撃的とも言える姿勢で仕事に向き合う雄一は、ミーハーな麻美の目にとても男らしくスマートに映った。
多忙な彼の支えになると誓ったのも、紛れもない事実だ。
しかし、そんな夫の長所は、今となっては“つまらない男”という一つの言葉で括れる。
それどころか、エリートにありがちな論理的思考、融通の利かなさや、女心への共感力の低さなど、雄一と過ごす時間が長くなるほど、欠点に苛立つことしかなくなった。
違和感は、結婚して間もなく生まれていたと思う。
1つずつ挙げればキリがないが、まずは子作りに消極的なことだ。
「ねぇ、私たちもそろそろ赤ちゃん...」などと切り出そうものなら、あからさまに無視された。そもそも雄一は家族行事にはとことん無頓着で、麻美の実家を避けるだけでなく自分の両親とも疎遠という、家族愛の薄い男だった。
また、彼の人生で最も重要なのは“自分のペース”であるようで、以前楽しみにしていた京都旅行の当日、麻美が体調不良で高熱を出したときは「お大事に」と一言残して涼しい顔で1人家を出ていったこともある。
新卒から勤めている弁護士秘書の仕事をダラダラと続けているのも、「専業主婦って、なんか馬鹿っぽいよ」という雄一の意見のもとだ。
仕事が嫌いなわけではないが、生活費に困るわけでもない麻美にとって、オフィスはただの“暇つぶし”の場となっている。
そして1年ほど前、決定的な出来事が起きた。
それはある週末、麻美がせっせと豪華な夕食を用意していた日のことだった。
平日は多忙を極めている雄一とゆっくり食事をしようと、料理教室で習ったばかりの洋食メニューをダイニングテーブルに並べていたところ、ジム帰りの彼はサラリとこう言ったのだ。
「あ、運動したばっかりだから、今日はそういうのは食べられない。俺、UberEatsでサラダでも頼むわ」
そうしてスマホを取り出した雄一に、麻美は思わず反論した。
「ねぇ、せっかく作ったんだから一緒に食べようよ」
彼は少し驚いたような顔で麻美を見つめていた。
「なに?だって勿体ないでしょ?」
それでも返事をしない夫に、麻美は少しだけ語気を強めた。
「っていうか、私が毎朝お弁当作って、ぜんぶ家事をするのも当たり前だと思ってない?ゆうくんほどじゃないけど、私だって働いてるんだよ。もう少し感謝してくれても良くない?」
別に、感情的に怒鳴ったわけでも、必要以上に恩を着せたかったわけでもない。
ただ、作った料理を食べるのは当然だと思ったし、主婦業への労いの言葉くらいあってもいいと思ったのだ。
家事が物凄く負担というわけではないし、雄一とは収入が10倍近くも違うことも、生活費はほぼ彼が負担していることも承知している。
けれど、 “ありがとう”“いつも助かるよ”と声をかけるくらい、大して労力はかからないはずだ。
しかし雄一は、謝るでも逆上するでもなく、麻美の予想を遥かに上回る言葉を口にした。
—そっか。じゃあもう何もしないで。最初から頼んでないから。本当に、何もしなくていいよ。
彼はそう答えながら、爽やかな微笑すら浮かべていた。
あの顔を見てから、麻美は夫にいちいち目くじらを立てることをやめた。
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