“婚活歴15年” 難もない女、何もない女
透き通るように白く、衰えを知らないハリのある肌のおかげなのか、真理子は実年齢よりずいぶん若く見られ、30代前半と思われることが多い。真理子自身も、見た目の若さには自信がある。
今日のお食事会中、幸い年齢についての話題が上がることはなかったが、おそらく参加者の男性陣は、真理子が他の女性陣より7つも年上だなんてまさか想像もしていないはずだ。
そう、真理子は、1978年生まれの40歳なのだ。
—それにしても、どうして33歳の後輩たちが、私を食事会に誘ってくれたんだろう?
ふとそんな疑問が湧いたが、彼女たちは、真理子が40歳の独身だからといってそれを見下すようなことはしない。
むしろ日頃から、「自分もアラフォーになったら真理子さんみたいになるのが目標」だなんて絶賛してくれている。そんな可愛い後輩たちの褒め言葉を、真理子はありがたく受け止めていた。
今日誘ってくれたのも、年齢は関係なく純粋に婚活仲間として認めてくれているからなのかもしれない。 そう、自分に言い聞かせた。
池尻大橋の自宅マンションに着くと、エレベーターに乗り込み「3」のボタンを押す。エレベーターの中で、ポストに届いていた郵便物をチェックしていると「賃貸契約更新のお知らせ」が届いていた。
―この部屋に暮らし始めてもう10年か。 こんなに長くここに住むはずじゃなかったのに…!
10年前、31歳の誕生日に、このマンションの賃貸契約をした。
「次の更新までには、絶対に結婚を」。毎回そう誓いながら、気づけば4回も更新していた1LDKのこの部屋は、真理子が初めて一人暮らしを始めた場所でもある。
同じ田園都市線沿いの溝の口に実家があるため、実家まで一本で帰れることと、目黒川沿いの桜並木に惹かれて、当時は家賃もちょっぴり背伸びして選んだ部屋だった。
―10年間も家賃と更新料を払い続けていたんだったら、マンション買った方が良かったじゃない…。
シャワーを浴びて、ベッドの上でお気に入りのジョーマローンのボディークリームを、自慢の細くて長い脚に塗りながら考えていた。マンションの更新のたびに、独身の長さを実感するのだ。
最後にこの部屋に男が訪れたのは、もう5年も前になる。
商社勤務の元カレ(当時36歳)とは3年付き合っていたが、突然海外転勤になり音信不通になった。噂によると、20代の女と結婚したとのこと。
真相は追究しなかった。これ以上傷つきたくなかったから。
20代の頃は、失恋だって大々的にできた。友人たちに集合をかけて、元カレの不甲斐なさを語り合い、慰め合う「失恋儀式」を開いたものだ。
気付けばそんな儀式をする仲間も減っていた。しかも35歳の失恋なんて痛すぎたから、自虐ネタの笑い話にして、さほど傷ついていないフリをするのに必死だった。本当は、心がズタズタだったのに。
その後、35歳にして3年ぶりに婚活市場に舞い戻ると、そこで真理子を待ち受けていたのは、現実だった。
20代の頃は毎日のように誘われていた食事会が、激減していたのだ。
学生時代の同級生たちも、ほとんどが結婚して子育てに忙しい。気付けば、夜集合の飲み会から、昼間のBBQに子連れで参加という企画に移行していた。
子供は好きだけど、育児やお受験の話題にはさっぱりついていけず、いつも真理子は子守役に徹するのみだ。
―私のどこがいけないの…?顔も悪くない、性格も悪くない、仕事も頑張っているし、それなりに認められている。難はないはずよね?
そんな風に、結婚できない理由を探しているうちに、月日だけが過ぎていく。
37になるとついに、それまで稀にあった食事会は皆無となり、婚活パーティーも、自分より一回りも若い女の子たちさえ参加していると思うと気が引けて、参加する勇気が湧かなかった。
それでも友人の紹介で知り合った男性などから、誘いはポツポツあり、デートはしてきた。でも、3回以上続くデートはなかった。
こうしてあっという間に数年がたち、40になってしまったのだ。いつのまにか、婚活歴が15年にも及んでいるという驚愕の事実に、時折ものすごく落ち込むことがある。
夜用リップクリームを唇に塗りながら、真理子はふと考えた。
「最近キスしたの、いつだっけ…?」
この記事へのコメント
素敵な男性と結ばれるハッピーエンドに期待!笑