ブラックタワー Vol.6

夫に隠れて、大金を受け取っていた妻。7年前に犯した過ちから、逃れられない恐怖

ーまるでお城みたいに、高くて真っ白な塔。私もあそこの住人の、一人になれたなら…。

ずっと遠くから眺めていた、憧れのタワーマンション。柏原奈月・32歳は、ついに念願叶ってそこに住むこととなった。
空に手が届きそうなマイホームで、夫・宏太と二人、幸せな生活を築くはずだったのに。

美しく白い塔の中には、外からは決してわからない複雑な人間関係と、彼らの真っ黒な感情が渦巻いていたー。

憧れのタワマン暮らしを始めた奈月だったが、元不倫相手が同じマンションに住んでいることが判明し、さらに、差出人不明の黒い手紙が、送られて来て窮地に立たされる。遂に犯人を見つけた奈月は、その正体に驚愕するのだった。


真瀬ママが、罪を犯した理由


柏原夫妻がうちにご挨拶にいらした時、ふと、かつてこのマンションにいた、あるご夫婦のことを思い出しました。

お二人とも広告代理店にお勤めで、華やかな雰囲気のそのご夫婦は、いまの柏原夫妻と同じ部屋に住んでいました。

そのころの私は、娘の子育てに四苦八苦する毎日を送っておりました。経営者の主人は毎日忙しく、ほとんど頼れませんでしたので。

ある朝主人を送り出すため、娘を起こさないようそっと玄関を開けると、エレベーターの方からあのご夫婦の会話が聞こえてきたのです。

「ゴミ置き場、変な臭いしない?」
「オムツかもね。赤ちゃんいるじゃん。」

まさか。きちんと対策はしているので、そんなはずはありません。

濡れ衣を着せられたことを抗議するよう主人に強く訴えましたが、彼は私を一瞥し、ため息をつくだけです。

そしてその日を境に、主人はあまり家に帰ってこなくなりました。クレームをつけてまくしたてる妻の姿に幻滅したんだ、私はそう確信しました。

原因を作ったあの夫婦は、こちらの気も知らず、毎日着飾って、仲睦まじく出社して行きます。一人で娘を抱えた私は、その様子を睨みつける日々を送っていました。

だけど、オムツを入れた消臭袋を固く結ぶたびに、恨みは積み重るばかり。ある日限界を迎えた私は、彼らに不幸の手紙を送ることにしたのです。

ー私の家庭を壊しておいて、幸せな生活を見せつけるだなんて、絶対に許さない。

手紙には”お前の秘密を知っている”と書きました。心理学の本に、秘密や禁忌を仄めかすことは効果的と書いてあったのを、覚えていたからです。

そして、翌週にも、その次も。私は手紙を届け続けました。

そのことはマンション内でちょっとした騒ぎになりましたが、私が疑われることはありませんでした。

騒ぎの最中、次第にご夫婦が一緒にいるところを見かけなくなりましたが、それはどうやら、あの手紙がきっかけとなり、二人の間に互いに対する疑心が生まれたみたいです。

その後、離婚し、マンションを出て行くと聞いたときは、溜まった恨みが一気に洗い流されたような、そんな清々しい気持ちになったのです。

ですが、柏原夫妻と出会ってしばらくすると、消えたはずのあの感情が再び湧き出してきました。

可愛らしい奥様と優しそうなご主人が、まるでこちらに見せつけるかのように、手を握り合っている。

幸せの象徴のようなその姿は、離婚調停申込書を受け取ったばかりの私の心を、深くえぐりました。

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