ブラックタワー Vol.3

「他の住民には秘密で、夜会いたい…」夫を誘う、美しきコンシェルジュ。彼女が握るマンション内の秘密

ーまるでお城みたいに、高くて真っ白な塔。私もあそこの住人の、一人になれたなら…。

ずっと遠くから眺めていた、憧れのタワーマンション。柏原奈月・32歳は、ついに念願叶ってそこに住むこととなった。

空に手が届きそうなマイホームで、夫・宏太と二人、幸せな生活を築くはずだったのに。

美しく白い塔の中には、外からは決してわからない複雑な人間関係と、彼らの真っ黒な感情が渦巻いていたー。

憧れのタワマン暮らしを始めた奈月だったが、元不倫相手・永田が同じマンションに住んでいることが判明し、少しずつその幸せが崩れ始めていく…


「おお。マンション内だけの集まりなのに、人数多いなー。」

宏太の言葉を曖昧に受け流しながら、奈月は素早くパーティールーム内を見渡した。

マンション住民で行われる”交流パーティー”で、過去の不倫相手と再び顔を合わせてしまうかもしれないー。

そんな不安を抱いた奈月は、なんとかして不参加の方向に持って行こうと画策したが、夫の勢いに負け、結局二人して訪れることになったのだ。

ー永田さんはいないみたいだけど…なんかこの雰囲気、入りづらいかも。

この後出くわしてしまう可能性は十分にあるので、永田がいないうちに挨拶をささっと済ませて帰りたい。しかし、すでに会場内にはいくつかのグループができてしまっている。

知っている顔は同じフロアの真瀬さん親子くらいだが、一瞬目が合ったきり、向こうを向いてしまった。他の子連れファミリーと一緒にいるので、DINKSの奈月たちには用はないのだろう。

「柏原様」

入り口付近でオロオロしている奈月たちに声をかけたのは、コンシェルジュの吉岡多香子だ。

「来ていただけたんですね、さあ、こちらのテーブルにどうぞ。」

促されるままついた席には、すでに先客がいた。半年程前に越して来たという夫婦も、初めての交流パーティー参加だったらしく、同じ境遇の相手にホッとしたのか、にこやかに迎えてくれた。

しばらくすると、多香子が紫色の髪をした女性を連れてきた。自治会長だという初老の女性がその輪に加わったことにより、更に何人かの住民とも挨拶を交わすことができたのだった。

「俺、お代わりとってくるよ。」

元々いた夫婦が席を離れたタイミングで、宏太がドリンクを取りに向かった。2杯目を飲み終えたら部屋に帰ろうと決め、奈月は少しだけビールの残ったグラスに手を伸ばす。

「優しい旦那さんで素敵ねぇ。…あ!コッチ空いてるわよ!」

愛想笑いを返す奈月の背後に、知り合いの顔が見えたのだろう。自治会長が手を振る方へ振り向くと、華やかな女性が笑顔でこちらに歩いてくる。

「紹介するわね。こちら柏原さん。最近"20階"に越していらしたの。」

とっさの他己紹介に、奈月は慌てて立ち上がり、頭を下げる。なぜ階数を言うのかは謎だが、タワマン内では大事な指標の一つなのかもしれない。

「でね、こちらは永田さん。最上階に住んでらっしゃるのよ。羨ましいわ〜!」

目の前にいる女性のまさかの正体に、奈月はなかなか頭を上げられなかった。

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