シュガー&ソルト Vol.1

シュガー&ソルト:いつしか疎遠になった、幼馴染。突然の“玉の輿婚”の知らせでザワつく28歳女の本音

ミキは大学卒業前に菜々子と『マーサーカフェ 恵比寿』を訪れていた。


春から社会人になるミキは、恵比寿に引っ越す予定だった。明治大学に通い、調布に住んでいたミキにとって初めての23区、憧れの街だ。

シフォンケーキをたっぷりのホイップに浸して口に入れると、甘みがいっぱいに広がっていく。

「就職おめでとう。あの化粧品会社だよね」

ミキは満面の笑みで応える。誰もが知る、大手化粧品会社に就職が決まっていた。

「すごいね、倍率高いところに受かるなんて」
「そんなことないよ」

久しぶりに菜々子の顔を真正面から、堂々と見れた気がした。

「菜々子は仕事忙しそうだね」

大学時代、ミキは留学したので、菜々子は1年先に社会人になっていた。目の下にはメイクで隠しきれないクマが見える。

菜々子は早稲田大学教育学部を卒業して、アパレルメーカーに就職した。希望していた広告業界からは内定を勝ち取れなかったのだ。

「まだ現場勤務?」

菜々子はカフェオレを飲みながら小さくうなずく。

ーわたしより偏差値の高い大学を出ているのに……。

「大学時代、接客のアルバイトやったことあるけど、社会人になってまでやりたいとは思えなかったな。菜々子はどうしてアパレルを選んだの?」

菜々子は一度ぐっと目を合わせてから、すぐに視線を落とす。その目力に、一瞬、どきっとした。

「なんでだろうね」

菜々子は失敗したから、とは言わなかった。ミキがその言葉を本人の口から聞きたくて、答えが分かっていることをわざわざ聞いたのは明白だった。

少しの沈黙が訪れる。

「……そろそろ出よっか」

菜々子のカフェオレはかなり残っていた。店内は混んでもいない。

ーごめん、と言うべきだろうか。いや、普通なら謝らなきゃいけないことを言ったよね、私。

菜々子はお会計に向かっていく。席を離れないミキに菜々子が呼びかけた。

「どうかした?」

優しい口調だった。ミキは高校2年生の、バスの場面を瞬時に思い出す。

「ううん」

ミキはようやく席を立つ。それが、2人の最後だった。



ミキが会おうよとLINEをすると、「予定がわかったら連絡するね」と、菜々子の言葉はいつも決まってそれだった。

会うのを待ち望んでいるような可愛らしいスタンプもいつの間にかなくなった。

ー切られたんだ。

ミキはようやく理解する。

ミキが社会人になってから数ヶ月後に、菜々子は会社を辞めて派遣社員になったと人づてに聞いた。


▶︎Next : 4月16日 火曜更新予定
一方、菜々子の人生はどのように進んでいるのか。派遣社員となった彼女に待ち受けるものとは?



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