姉に奪われた恋
-あれ、この写真に写っている人って…五十嵐先輩?
プロフィールビデオが、姉の高校時代に突入した時。複数の男女が肩を寄せ合いピースサインをしている写真の片隅に、懐かしい顔を発見して、またもや心がささくれだった。
彼-五十嵐先輩は、姉が奪った私の初恋相手だからだ。
あれは忘れもしない、私が14歳、姉が17歳のとき。
第一志望の高校の文化祭で2歳年上の先輩に一目ぼれした私は、なんとかして連絡先を聞き出すと、必死にアプローチをして、3度目のデートで「花火大会に行こう」と誘われた。
ついに告白されるかも、と逸る気持ちを抑え、精いっぱいのおしゃれをして待ち合わせ場所に向かう。鏡を見つけては何度もチェックし、笑顔の練習をしながら。
そしたらなんと、そこに…姉がいた。
姉は「偶然ね」と妖艶な笑みを浮かべたが、先輩が姉の虜になったのは言うまでもない。結局3人で花火を見たのだが、姉にばかり話しかける彼に、ショックを隠し切れなかった。
だから姉と2人きりになった時に、私は彼女を責めたのだ。そしたら姉は、しれっとした顔でこう言った。
「たいした男じゃないでしょ、あんなの。若葉、何ぶりっ子してるの?気持ち悪い」
彼が、姉と付き合いはじめたことを知ったのは、それからまもなくのことだった。
プロフィールビデオがさらに進んで、姉の学生時代に突入した。
この頃になると、姉の毒姉化は相当なものだった。
ピアノが得意だった私は音大に行きたかったが、姉は「音楽じゃ食べていけない」と猛反対し、親と一緒になって東大受験を強制してきたのだ。
当時の私の偏差値は、63。必死に勉強したが、当然のように落ちた。
その数か月前に、大学3年生だった姉は旧司法試験に合格しており、家での私の立場は、それはそれは酷いものだった。
浪人生になった私は、1日14時間の勉強に励んで偏差値を70まで上げた。今度こそ、絶対に東大に合格する…人生を賭けて、大勝負に臨んだのだ。
だけどそれでもやっぱり、ダメだった。
結局、内緒で受けて合格を掴んだ早稲田大学法学部に行くことにしたのだった。
◆
クライマックスの音楽が流れ、長かった披露宴がようやく終わろうとしている。
「2次会、どうする?」
帰り支度をしていると、佳樹が声をかけてきた。彼は姉のサークルの後輩で、今年29歳。姉の紹介で付き合い始め、もうすぐ5年になる。
「これから予備校に行って勉強かな。司法試験まであと1か月だから、とにかく頑張らないと。今年で2度目だし」
昨年、早稲田の法科大学院を修了し、1度目の司法試験に落ちて浪人生になった私は、家と予備校を往復しながら1日16時間の勉強に励んでいた。
「あまり無理しすぎるなよ」
東大大学院の博士課程に在籍している佳樹は、「若葉が司法試験受かって、俺がドクターとったら結婚しよう」が口癖だ。頷きながら、私は心の中で固く誓う。
-今度こそ、絶対に合格する。そして、必ず…幸せになる!
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司法試験の結果は…?そして、若葉が彼に迫ったこととは…?
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