最後の恋 Vol.5

「1番好きな人とは、結婚できなかった」世間体に惑わされ自分の気持ちを無視した女の、悲しい習慣

人はいつだって、恋できる。

だが振り返ったときにふと思うのだ。

あのときの身を焦がすような激しい感情を味わうことは、もうないのかもしれない。あれが「最後の恋」だったのかもしれない、と。

それは人生最高の恋だったかもしれないし、思い出したくもない最低な恋だったかもしれない。

あなたは「最後の恋」を、すでに経験しているだろうか…?

この連載では、東京に住む男女の「最後の恋」を、東京カレンダーで小説を描くライター陣が1話読み切りでお送りする―。

前週は、最後の女として一樹と結婚した女・茜を紹介した。

今回は、茜の後輩である沙希の姉、真希の物語である。


結婚至上主義の世の中に対する違和感


「ね、お姉ちゃんはどう思う?私はやっぱり、他の女に目移りするような男とは結婚したくないなぁ」

「だって浮気を許すってさ、相手の男になめられてるってことでしょ?」

興奮しながら喋り続ける妹・沙希の話を聞きながら、私はいつものようにコーヒーにミルクを注いだ。

深い褐色が、たちまち変化する。

その完全に混ざり合った液体に、沙希の好みに合うよう砂糖を加えた。

ゆったりとした時間が流れる中、楽しげにあれこれ話す妹の顔を見ていると、心から癒される。

「その茜さんって先輩、ハッキリ言って普通の人なんだよ?けど、ちゃっかり結婚に漕ぎ着けたんだよね」

最近の沙希は、会えば常に「結婚したい」とボヤいている。結婚し、早く誰かの”妻”になることで、安心したいのだろう。

妻という立場を手に入れ、初めて自分に自信が持てるようになる人も、たしかにいる。

だが私の妹は、こんなにも優しく、可愛らしく、素直で良い子だ。結婚によって誰かの妻になることで自信を得る必要がないのに、といつも思ってしまう。

結婚したからといって、自分に自信が持てるわけではない。

誰かからプロポーズされたから、一生一緒にいようねとお願いされたから、人間としての価値が上がるわけではないのだ。

妹の話を聞くフリをしながら、夫・悠人と結婚する前に最後に心を大きく動かされたあの人のことを思い出す。

ーもしも今の相手ではなくて、「あの人」と結婚していたら?

「あの人」とは、悟…。

私のたしかな、最後の恋の相手。

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