無業の女王 Vol.4

意地でも離婚はしない。夫以外の男に縋りながら、虚しさを溜めこむ女の歪んだ愛情

34歳、国立大卒の美しき才女、高木帆希(たかぎ・ほまれ)

父親は作家の傍らコメンテーターとしても人気の有名人で「家事手伝い」という名の「無業」で10年もの間、ぬくぬくと過ごしてきた帆希。

そんな働かずとも裕福に暮らしてきた彼女に、突如、降りかかった「父の死」。

再び「社会」と向き合わざるを得なくなった帆希は、5年の付き合いになる年下の彼氏・牧野涼輔の家に転がりこもうとする

だが、涼輔の裏切りによって帆希の人生プランは白紙に戻ってしまう…。

絶望に打ちひしがれるかと思いきや…帆希は「絶対に働かずに生きる」という希望を見つけ、二子玉川の兄夫婦の元へと転がり込む

年下の兄嫁・早紀との熾烈な舌戦に敗北した帆希は、目白の実家を出ていくことになるのだが…。


他人にとってどうでもいいような、他愛もないことだった。だけど私は、あの時「人生が終わった」のだ。

『そんなことで就活やめたの!?』
『学歴捨てて家事手伝い!?』

当時の私を知っている人たちは、「そんなことくらいで?」と驚いていた。

だけど…私にとって…耐えられない出来事だった。他人に理解されなくとも…。

あの日、あの時、あの場所にいなければ…私はきっと、働けていただろう。ごく当たり前のように…愚痴を言いながらも、働いていただろう。

過去は書き換えることは出来ない。何度、悔やんでも戻ることは出来ない。

だから私は決めたのだ。
私は、絶対に『働かない』と―。



「お金、貸してくれない?」

諸外国の大使館が点在する港区元麻布エリア。その中でも、ひと際セキュリティが万全な高級低層マンションの最上階。

私の目の前にいるのは、大学時代の友人・瑞樹だ。

スッキリとした空間は、瑞樹のイメージどおりで居心地がよかった。

―私もこんな家で優雅にのんびり暮らしたい…。

そんなことを頭の片隅で考えながら、私は瑞樹の反応を待っていた。瑞樹は何も言わない。ただ、黙って私を見つめている。

「父親が痴漢を捕まえようとして死んじゃうなんて、あり得ない不幸でしょ?」

つまらない話だと、瑞樹は思っているだろう。きっと、今の私に相当がっかりしているに違いない…。

『帆希も落ちたもんだ』

そんな瑞樹の心の声が聞こえてきそうだ…。

瑞樹と会ったのは、何年ぶりだろう?最近ではSNSでしか交流のなかった瑞樹。

瑞樹は財務省に入省し、30歳で同期のエリートと結婚した。今は専業主婦をしているとSNSのプロフィールに書かれてあった。

子供を作らず、悠々自適に夫婦で暮らしているようで、「自由」という言葉がしっくりくる生活をしているようだった。

だから私は、目白の家を出て、すぐに瑞樹に連絡を取って会いに来たのだ。

―心に余裕のある瑞樹なら、私の話を聞いてくれるかもしれない。

淡い期待をしている私に、やっと瑞樹が口を開いた。

「帆希なら何とかなるよ。私なんかより、幸せになるチャンスあるって」

そう言って、瑞樹は微笑んだ。

「チャンスって…私が!? 何にも無くなったのに!?」

「無くなってないでしょ? 大学の頃と全然変わんない。素直で不器用で、世間知らずで、妙に頑固で…自分のことしか考えてなくって」

「…瑞樹……意地悪になった」

「あのね…私は、帆希のこと、これでも褒めてんの。自分に嘘つかない生き方を、この10年してきたんだなぁと思ってさ。…私は正直、帆希が羨ましいよ」

「嘘だ…。瑞樹が私を羨ましいって…」

「本当だよ。誰よりも優秀だった帆希が就職しなかったのも、正直、びっくりしたけど…それも自分を大事にしたからでしょ…」

「瑞樹は…自分に嘘ついてんの?」

私の問いかけに瑞樹は寂しそうに微笑んだ。

SNSにアップされていく瑞樹の毎日は、キラキラと輝くものだった。『麻布十番しも井』『可不可 KAFUKA TOKYO』のご近所ディナーの写真、書道家の友人から習っているという書道作品の写真、お洋服のコーディネート写真…ありとあらゆる角度から「知的さと上品さとクラス感」が伝わる瑞樹のSNS。

完璧な瑞樹がどうして私を羨ましいというのか…私には理解ができなかった。

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