渾身のレストランでかけられた、鬼上司からの思いがけない言葉
「乾杯〜!」
年が明け、迎えた新年会当日。
紗弓をはじめとした広報部のメンバーは、『ビキニ シス』のモダンな雰囲気の店内でカヴァやサングリアの注がれたグラスをかかげていた。
一口サイズのホットサンドや色とりどりのピンチョス、子羊のカツレツなど次々と運ばれてくるコース料理の数々は、どれも洗練されている。
もちろん味の方も申し分ない。魚介の旨味が染み渡ったパエリアなどは、あっという間に無くなってしまったほどだ。
「センスいい店だね!最高」
そう声をかけてくれるメンバーも多く、紗弓はホッと胸をなでおろした。
肩の荷が下りた気分でカヴァを飲んでいると、斜め向かいの席から理子がしきりに目配せをしている。
「…?」
その視線が促す方を追ってみると、そこには驚きの光景が待ち受けていた。
―あの片岡さんが…笑ってる!?
テーブルの端に座っている片岡が、スペインワインを片手に穏やかな笑顔で談笑している。
「すごいよ紗弓ちゃん!片岡さんのあんな顔、初めて見た!」
こらえきれなくなった理子が、テーブルに乗り出しながら紗弓に興奮を伝えて来る。紗弓は理子と顔を見合わせるとクスクスと笑いあった。
その時だった。
たった今までニコニコとワインを飲んでいた片岡が、おもむろに席を立ったかと思うと、紗弓の方に歩いて来る。「ヤバっ」と言いながら理子が慌てて身を引くのと同じタイミングで、紗弓の背後に片岡が立った。
―マズイ…、気に障ったかな…?
紗弓は背後の片岡の方にゆっくりと向き直ると、叱責に備えて肩をすくめる。
しかし、片岡からかけられたのは意外な言葉だった。
「再来週の会食、この店抑えておいてくれ。お前も予定空けておけよ」
予想に反したセリフに、「へっ?」と間抜けな声が漏れ出る。片岡はそれだけ言うと、すぐに踵を返してしまった。
うまく事態が飲み込めずにいた紗弓だったが、再び身を乗り出してきた理子が「すごいじゃん!」と囃し立てるのを聞いているうちに、片岡の言葉の意味を理解し始める。
―私、片岡さんに認められたの…?
手に持ったカヴァの泡のように、ふつふつと喜びが湧き上がってくる。紗弓の取り仕切る新年会は、稀に見る大成功を収めたようだった。
◆
「片岡さん、来週の会食も六本木ヒルズでいいですか?」
「おう、プレミアムダイニング全店制覇まであと少しだから付き合え。先週は『澄まし処 お料理 ふくぼく』だったから、来週は『よし澤』だな」
新年会以来、会食に同行することが増えた紗弓は、片岡と急速に距離を縮めていた。
はじめのうちは緊張していた紗弓だったが、社外で話してみると意外に気さくな片岡と打ち解けるのに、そう時間はかからなかった。今では、片岡の中学生の娘に渡すプレゼントの相談にまで乗る仲だ。
「じゃあ私、デートで今夜も六本木ヒルズに行くんで下調べしておきますね。お先に失礼しまーす」
会社を出ると紗弓はすぐに、健斗に宛ててLINEを送った。
“これから六本木ヒルズに向かうね。今日は『よし澤』に行ってみてもいいかな?ちょっとスキルアップのことで悩みがあるから聞いてね!”
同棲の楽さにだらけてしまっていた健斗との関係も、近頃はメリハリが付いている。「美味しい店を開拓する」という共通の新しい趣味を持つことで、外出してデートをしたり、きちんと話をする時間を持つようになったからだ。
―なんだか最近、毎日が新鮮。レストラン選びみたいな小さな仕事でも、なあなあになっていた恋愛でも、手を抜かずに真剣に取り組むことが大事なんだなぁ。
向春のきりりと冷たい風が頬を撫でる。紗弓は今、生まれ変わったような清々しさに満ち溢れていた。
ーFin.
紗弓のように、新年会はリニューアルした六本木ヒルズ ウェストウォーク 5Fのプレミアムダイニングフロアに足を運んでみては?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
この記事へのコメント
最後は全部うまく行く、爽やかな読後感は好きです!
PR小説は今まで無理矢理感があったけど、今回のは読んでいて面白かった!