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「あ、里香さん!」
カウンターにいた航平の爽やかな笑顔を見て、こちらも思わず笑顔になる。今日も航平は爽やかで、カジュアルだ。
「何飲みますか?」
そう言ってサラリとお会計を済ませてくれる航平に礼を言い、乾杯する。色白で肌が綺麗な航平。ちょっと線が細いものの、力を入れた時に浮き出る腕の血管が妙に色っぽい。
「今日はここでご飯なんですか?」
店内を見渡すと、レストランは別フロアーか奥の方にあるようだ。しかし、航平の頭の中ではきちんとプランができていたらしい。
「お店はここじゃないんです。これ飲み終わったら移動しましょう。大通りまで歩けます?そこからタクシー拾いましょう」
「は、はい。もちろん!」
そうして足早に1軒目を去った私たち。渋谷区スタートアップ系男子とのデートの場合、ピンヒールはご法度だと私は密かに胸に刻む。
周りを見てみると、街を歩く女性たちもオシャレレベルが異常に高く、いわゆるコンサバとは一線を画している。靴もピンヒールではなく、チャンキーヒールやブランド系のスニーカーの割合が高い。コンサバで固めた自分が、この街では浮いていることをまたしても思い知らされる。
「着きました!」
そんなことを考えているうちにタクシーに乗り込み、キラー通りから青山熊野神社方向へ抜けて到着したのは、『アンディ』だった。
普通のベトナム料理屋かと思いきや、とんでもなくセンスがいい。奇をてらった系でもない。ただただ、オシャレである。
そしてさっきから航平の飲みはスローペースだが、話は面白い。私の知らないワードがポンポンと出てくる上、彼の知識には驚かされる。
「神泉の『アウレリオ』とか行きました?最近昼間によく表参道の『LATTEST』で仕事しているんですけど、里香さんは、気になっている店とかあります?」
「え?ど、どこでしょうか」
そう言いながらも、一生懸命頭をフル回転させる。彼から、少しでも“ダサい”とか“センスがない”と思われたら、このデートが最後になってしまうような気がする。
「でも本当に、航平さんってセンスがいいんですね」
情報をアップデートしていなかった自分を悔いながら慌てて話をそらし、私は航平の恋愛観を聞き出すことにした。
「そんなことないですよ。僕あまりブランド物とかも買わないし、女性とも派手に遊ぶわけでもないから・・・。お金を使うところが限定してるんですよ」
「へぇ〜意外に堅実なんですね!結婚したらいい旦那様になりそう!」
そう、意気揚々と私が航平に話しかけた時だった。航平の発言に、私は思わずピクッとなった。
「あ・・・僕、彼女は欲しいんですけど、結婚願望はないんです」
この記事へのコメント
本当に世の中を変えるサービスをリリースできる人って、意識高い系おしゃれ界隈にはいない気がしてます。