―私は私。他の誰とも比べたりしない。
結婚して、出産する前まではこんな風に考えていたのに。
子供を持ち母となって、劣等感と嫉妬心に苦しめられる女たち。
未だかつてない格差社会に突入した東京で、彼女たちをジワジワと追い込むのは「教育格差」だった。
高校時代の同級生だったエミと実沙子は、ある日偶然の再会をする。
大恋愛の果てに結婚したエミと、代々続く病院の医師と結婚した実沙子。ふたりはそれぞれ、幸せの絶頂にいたはずだった。
しかし再会をきっかけに、エミと実沙子の幸せだった日常は少しずつ狂い始めていくー。
幸せな娘時代
私が当たり前だと思っていた暮らしが、いかに有り難かったのか。
そんなことに、結婚して母になってから初めて気がついた。
私・佐々木エミは、会社を経営する父と専業主婦の母の元で育った。
私と2つ年上の姉を私学に通わせ、塾や習い事の機会も惜しみなく与え、海外旅行に沢山連れて行ってくれた父の背中はとても偉大に見えた。
そこそこ裕福な家庭で、両親から何不自由なく育てられた私の生活が変わったのは、結婚をして娘が生まれてからのことだ。それまで当然だと思っていた生活レベルはがくんと下がったのだ。
しかし、愛する夫と娘と過ごす生活に、私は心から満足していた。私が親からしてもらっただけのことを、娘に与えてあげられない歯がゆさはあったが、誰がなんと言おうと私は幸せだ。
ーでも、28年間で身についた価値観というものは、本来はそう簡単に変えられるものではない。
そんな当然のことに今頃気がついてしまったのは、あの女に会ってしまったからだ。
すべての始まりは、森田実沙子との偶然の再会だった。
女子高時代の同級生である実沙子は、私と同じタイミングで母になり、娘を連れていた。
都内で代々続く病院の跡取り息子と結婚した実沙子との、まるで運命のいたずらのような再会。それは、私がずっと隠していた、心の中のどす黒い影の部分を目覚めさせてしまった。
結婚が間違っていたとは思わない。彼と結婚していなかったら、宝である娘とも出会えないわけだもの。
しかし、自分があの時もっと別の選択をしていれば、人生は少し変わっていったのではないか…。
実沙子に会った日以来、私はそんな風に思ってしまうのだ。
この記事へのコメント
幸せに生きるには人と比べないってよく言われるけど本当難しい…