女性としての敗北感で、夫との別れを決意
カナが離婚を決意したのは、3ヶ月前のことである。
あの日に限って、夫がシャワーにスマホを持ち込んでいることに気がついてしまったのだ。
”何か怪しい…”
そんな女の勘でついうっかりチェックしたスマホに残された、浮気の証拠メッセージ。
「あ…いや。見つかっ…ちゃったかな…」
目の前でバツが悪そうに視線を泳がせ動揺している男が自分の夫だなんて、信じたくなかった。
1年弱セックスレスな理由を、”もう昔みたいに性欲がないんだよ”なんて言っておきながら、会社の女と不倫をしていたなんて…。
カナは、目の前で発覚した事実をなんとか受け止めようとしたが、どうしても上手くいかなかった。
だが、不思議と涙は出て来ず、 時間の経過とともに心の動揺はだんだん「悔しい」という気持ちに変わっていく。
大学時代から付き合って結婚した同じ年の司は、三大メガ損保のひとつと言われる企業に勤めており、会社での評価も高い。
だがルックスは至って普通で、趣味は出世のためのゴルフ、読書、散歩といった凡庸なものが並ぶ。深酒もせずいつも常識の範囲内で帰宅していたし、超・真面目な夫だと思い込んでいた、それなのに…。
ーさっきの会議では、アシストありがとうね。今夜も君と濃密な時間を過ごして、僕の全てを解き放ちたいよ…!
司は、そんなキモ過ぎるLINEを不倫相手である同僚の女に送りつけるような、最低な浮気夫だったのだ。
5年間の結婚生活は、この瞬間までは、バラ色とまでは言わないが最悪なものでもなかった。
会話も肉体関係も激減していたものの、お互いの安定した給与、都心での華やかな生活、自由気ままな暮らしは気にいっていたというのに。
だがその全てと決別しても守りたいプライドがある、とカナは覚悟を決めた。
「…司。私たち、もう離婚しよう」
◆
「まさか、司君がそんながっつり社内不倫していたとはね…。でもカナはまだ若いんだしこれからいくらでも出会いがあるって。それに、バツイチって本当にモテるっていうじゃない?恋愛市場に復帰できるの、いいな〜〜〜」
35階から見える夜景が美しい『マンゴツリー東京』で、子持ちの奈緒子が、なぜか羨ましそうな声を出す。
「それにカナは結婚しても仕事、続けてたもんね。この通り美人だし、離婚のデメリットなんて、ほとんど見当たらないわよ!」
一生懸命に励ましてくれる友人達に恵まれ、普通なら寂しさに苛まれそうな夜のはずなのに、カナの心は暖かい。
後からわかったことだが、司の不倫相手はなんと1人ではなく、複数の女性とのかなり長期間に及ぶものだった。
仕事に女友達との付き合い、趣味で続けていたダンスに夢中になり、夫婦間のセックスレスを放っておいた、自分も悪かったのかもしれない。
大学時代から知っている夫には、もちろん情もあった。
しかし、何度考えても不倫はどうしても許せない。何事もなかったかのように自分を裏切った男と暮らし続けるほど、カナの精神は強くはなかった。
「別居からにしたら?」という慎重派の姉や両親のアドバイスをはねのけて選択したこの道が、正しいか正しくなかったかなんて今はわからない。
だが、酔ってホテルの部屋にたどり着き、亜美と奈緒子によって”Happy Divorce”と書かれたケーキが登場した瞬間、カナは「私の人生も悪くない!」と思えたのであった。
この記事へのコメント
キモっ
見た目が平凡な男性ほど、そうなりやすいのかも?
何よりそんな人との間に、子供がいないのが、救いですね。これからの再婚活、色々ありそうだけど、自分に自信持って、楽しんで出来るといいね。