「・・・で?ごめん、遥香ちゃんって性格悪いの?」
仕事後、『ザ・ラウンジ by アマン』に呼び出された太郎は、素直に優奈に尋ねてみた。昨日の食事会のやり取りを思い出しても、遥香の性格の悪さなんて、一切分からなかった。
「あのさ。太郎ちゃんって、バカなの?」
優奈の呆れ顔とその言葉に、太郎は一瞬言葉に詰まる。
「マウンティングの嵐だったこと、本当に、気がついていないの!?」
もちろん太郎は全く気づいていない。
しかしそんなこと言える状況でもないので、優奈の解説を静かに聞くことに徹することにした。
「そもそも、“疲れてない?”とか“肌荒れしている”とか言われたら、せっかくの食事会で綺麗にして来てるはずなのに気にしちゃうじゃない。男性の目の前でそんなことを指摘をするのは、完全に相手を陥れるためよ。あと、“普段はファンデーションとかも塗らない”と言うのは、“素肌でも、私はこんな美人です”っていうアピールね」
—そうだったのか・・・。
全く気がつかなかったが、太郎は指摘されても尚、それの意味が分からずにいた。そんなことをして、何の意味があるのだろうか。
そんな太郎をよそに、優奈は解説を続ける。
「あと“恭子、良かったじゃん!”って証券マン好きなの暴露したのは、“この子はお金目当てでガッついていますよ”というのを暗に男性陣に伝えるため」
目の前のウイスキーの氷が、“カラン”と音を立てる。『AMAN』のロゴが入ったそれを、太郎はじっと見つめた。
「ちなみに、“私なんかより親しみやすい”は、“私は高嶺の花だけど、恭子は手を出しやすい、簡単な女”ってこと」
優奈曰く、女の言う“親しみやすい”は褒め言葉ではないという。むしろ下に見ている証だそうだ。
「そして地方出身をバカにしているのも見え見えでしょ?そういう遥香自身、東京出身とはいえ超田舎の方なのに・・・」
優奈の説明に、もはや太郎の頭はグルグルと回り始めた。
女性の一言一言には、そんな巧みな計算が働いているのか?そうだとしたら、怖すぎる。遥香の綺麗な笑顔が脳裏に浮かび、思わず身震いしてしまった。
「それにね。そういう女に限って、自分が話の中心でないと気が済まないのよ。だから話題が恭子か私に行くたびに機嫌が悪くなって、自分の方に持って行こうとしていたの、気がつかなかったの!?」
もちろんそれにも、全く気付かなかった。
太郎の中では、明るくてよく話してくれて、友達への気遣いもできる女性というイメージしかない。男女で見えていた景色は、まるで違うようだった。
「女の子って、怖いんだね・・・」
ただそれしか言えず、太郎は黙って再びウイスキーを口に運ぶ。遥香も怖いが、それを話す優奈も正直なかなか怖い。
昨日の食事会では、みんな笑顔で楽しそうに過ごしていたのに。
それなのに、あの笑顔の下ではそんな蹴落としあいが繰り広げられていたなんて・・・。世も末である。
「太郎ちゃん。だから変な女ばかりに好かれるんだよ」
優奈のその言葉を聞く限り、太郎は女性を見抜く目をまだまだ養う必要があるようだ。
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その投稿、全て緻密な計算なり。女のインスタ詐欺に騙される男たち
この記事へのコメント
今後更なるイヤなタイプの女たちを紹介してください!いるいる!こんなヤツ!って便乗してコメントしたいです(笑)
呼び出して細かくご説明してくる精神も恐ろしい…