―30歳。
この年齢をひとつの節目として、自分を見つめ直す女性は多い。
ちょうど仕事への責任が重くなり、壁にぶち当たる頃。また恋愛でも、経験をそれなりに積んだがゆえに素直になれず苦戦するのだ。
彼女たちは、これをどう乗り越えていくのだろうかー?
美人で頭もよく、仕事もできると評判の美琴(みこと)も30歳を迎えたばかり。彼女もあることがキッカケで壁にぶち当たっていた。
そして自分を変えようと決意するが…!?
「ふぅ…」
何度目かの溜息とともに、美琴は窓の外を見つめた。
外資系化粧品メーカーに入社して、早8年。後輩もすっかり増えたいまでは、マーケティング部のアシスタントマネージャーとして奮闘する日々だ。
「先輩、本当にすみません。先に帰らせてもらうなんて。」
「向こうのご両親とご飯なんでしょ?こっちは大丈夫だから!」
入籍間近の後輩・しおりを早々に送り出し、美琴は急に降ってきた仕事を一人で黙々と片付けていた。すでに時計は20時を回っている。特に予定もなく、家で待っている家族もいない。だから残業していても大きな問題はないのだが、なぜか溜息が止まらなかった。
その原因は分かっている。今日の昼休みにコーヒーを飲もうと立ちあがったとき、窓に映った自分を思わず二度見したのだ。
「あれ、私って、こんなだった…?」
ゆったりとしたワイドパンツを履いているのにも関わらず、体型が緩んでいるのがはっきりわかった。
美琴は中学・高校とテニスに打ち込んでいたので、体を動かすことは得意なほうだ。しかし最近はほとんど運動していないせいか、元々コンプレックスだった下半身のたるみが目立っている。
―忙しいし、しょうがないわよね…。
心の中でそう言い訳しながら窓から目を背けたのだった。
ちょうど先月、美琴は30歳の誕生日を迎えたばかり。仕事中心の日々に忙殺されて、いろんなことがなおざりになっているような気がしていた。
◆
「お疲れ、お先〜!」
デスクに向かって小一時間ほどたっただろうか。同期の旬(しゅん)が、部屋の外から美琴に向かって手を上げていた。
それに笑顔で返した美琴だったが、旬の後ろを付いて歩く女性に気づく。その女性は、社内の男性人気が高いと噂の葵(あおい)だった。
ーあの二人、やっぱり付き合ってるのかな…?
美琴がそんな思いで2人を見ていると、葵はそれに気づいたのかぺこりと会釈し、駆け足で旬のことを追いかけて行った。女性らしいタイトスカートを綺麗に着こなしている後ろ姿が、美琴の目に焼きつく。
そして再び、小さな溜息をついたのだった。