東京恋愛市場で日夜繰り広げられる男と女の逢瀬。
世間の男たちは下心ありきで女性を口説き、彼女たちはどんな誘い文句を言うのかと口から出る言葉に期待する。せっかくの楽しいデートも、男性の発言ひとつで台無しになることは多いだろう。
これまでどうしてここで?というタイミングで、女性が不機嫌になったことはないだろうか。それはあなたが“口説けない男”である何よりの証拠である。
この連載では、女盛りの妹・美鈴(27)と、結婚3年目の姉・弥生(33)を通し、女性が喜ぶ口説き方の成功例・失敗例を紹介していく。初回は妹の美鈴がベンチャー社長35歳と初デートに繰り出したようだが……?
臨戦態勢でデートに臨む、27歳女盛りの妹。その光景に、姉は何を想う?
いつものことだが、妹の美鈴は1時間も前からずっと我が家の洗面台を占領し、やたらとめかしこんでいる。どうやら、新しく出会った男性と食事に行くようだ。
洗面台を覗けば、美鈴は下着姿で鏡の中の自分と真剣に向かい合ってアイラインを引いていた。ヒップは小さくキュッと引き締まり、その下にほっそりとした長い脚が続く。レースのショーツは彼女の身体を包装のリボンのように飾っている。
私も、27歳のときはこんな風であっただろうか。
結婚をして3年も過ぎれば、日々身体の隅々まで手入れを怠らず、男と会うために何時間も支度をしていたことを忘れてしまう。6歳年下の妹を、まだまだ子供だと思っていた。しかし気づけばもう27歳、女真っ盛りだ。
20代前半の瑞々しい若さからは卒業し、顔も身体も可愛らしい丸みが削ぎ落ちてシャープに、もともと派手であった顔立ちは人形のように美しくなっていた。一緒に街中を歩いていても、周囲の視線を集めているのがよく分かる。こんな女がどんどん下から追い上げて来るのだから、女の恋愛市場は厳しいと思わざるを得ない。
「今日は和食なんだって。お姉ちゃん、『分とく山』って知ってる?」
美鈴は大手弁護士事務所で秘書をしているが、長く付き合っていた弁護士の恋人と最近別れてしまった。それからというもの、手当たり次第に食事会やデートを繰り返している。姉としては心配であるが、この年頃の女に口出しをしても意味がないのは承知だ。
いろいろと小言を言ってしまいそうになるのをグッと堪えて、胸元が広めに開いた黒いワンピースを着た彼女に「最後の土鍋ごはんが余ったらお土産に持って帰って来て」と言い、笑顔で送り出した。ルブタンの真っ赤なソールが、やけに目に残る。
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