美を金で買った女
(2年後)
「麗華はやっぱり、ブランド業界が第一希望?」
「ブランド業界っていうか、外資系のジュエリーブランドね。他業界も一応受けるけど心は決まってるかな」
大学3年になると、私たちの関心ごとは“就活”一色となった。
この日、唯一の友達である恵美とゼミの後に立ち寄った『TOKYO CIRCUS CAFE』での会話も、そのほとんどが就活の情報交換。
出版業界を目指すつもりだという恵美の話に耳を傾け、お互い一通りの近況報告を終える。そうして会話が途切れたのを見計らうと、私はそっとバッグの中から“ある物”を取り出し、恵美の前に差し出した。
「恵美、見て。この間、伊勢丹写真館で撮ってもらった証明写真が出来上がったの。これ、データ見本なんだけど」
私から上質な光沢紙を受け取ると、恵美はそれを食い入るようにまじまじと見つめる。そして漏らすように「すごい、綺麗」と呟いた。
素直な恵美の反応に気を良くした私は、
「さすが伊勢丹写真館。盛れてるよね(笑)」
と、一応の謙遜をしてみたが、実際そこに映る私は間違いなく自分史上最高に美しいのだ。
それもそのはず。
私はこの年の初め、ついにプチ整形に手を出した。埋没法で、ぱっちり二重の瞳を手に入れたのだ。
その成果は、想像以上のものだった。単純に目が大きくなったというだけではない。
それまで自分の顔を見るのが楽しいなどと思ったこともなかったが、暇さえあれば鏡を取り出し、うっとりと眺めてしまう。
最低限の身だしなみ程度だった化粧も、美容雑誌を買い漁っては研究するようになり、眉の形を変え、アイラインの入れ方を変え、マスカラを変えては試行錯誤を繰り返した。
そういえば、プチ整形の際、クリニックの先生が言っていた。
「美人も不美人も、パーツ配置が数ミリ違うだけなのだ」と。
実際、瞼が数ミリ上がっただけで表情がぐっと垢抜けたし、眉の位置を数ミリ目に近づけただけで、のっぺりした私の顔もいくらか彫りが深く見える。
二重瞼のプチ整形が落ち着いた後、私はさらにレーザーでそばかす&ほくろの除去にも手を出したが、施術後のダウンタイムが終了すると、見違えるほど肌が白く輝いて見えて驚いた。
−“美しい女”になって、人生を変えてみせる−
平塚勇太に失恋をしたあの日。私はそう誓った。
美人は不美人より、生涯で3億円の得をするという。
それは素敵な男性に選ばれる、男性から優遇されるということももちろんだし、就職にだって明らかに“顔採用”は存在する。
私が目指しているブランド業界だって、圧倒的に美人が多いのだ。それがまさか、偶然であるわけがない。
地味で垢抜けなかった過去の私は、消滅した。
私はこれから“美しい女”として憧れの外資系ジュエリーブランドに入り、キラキラと輝く人生を謳歌する。
そして…平塚勇太を振り向かせてみせる。いつか、必ず。
私は恵美から返してもらった自分の写真を再びうっとりと見つめ、決意を新たにするのだった。
▶NEXT:9月20日 木曜更新予定
“美しい女”となり、社会人デビューした麗華。やはり美人は、無敵だった。
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この記事へのコメント
美人は得をしやすいのは本当だと思います。そりゃキレイな人と一緒にいたいだろうから。
でもそれ以上に、卑屈にならず明るくニコニコしてる人が一番!と生きてきた中ではそう思います。
美人だから得する事はあっても、世の中そんなに甘くないよ。