結衣と正式に付き合い出したのは、サークルの夏合宿後。
夏が終わる頃、大学キャンパスではまるで申し合わせたようにあちこちでカップルが誕生する。
結衣は誰を好きなのか?まさか、あいつも結衣が好き…?推し量ったり牽制したりしてきた恋心がついに解き放たれて、僕たちはほんの少しの隙間も惜しむように、肌を、そして想いを重ね合わせた。
結衣が他の男と親しげに話しているだけで、腹がたつ。
一昨日も昨日も抱いたのに、今日も抱きたい。帰したくない。
今になって思い返せば、いかにも安っぽい青春ドラマだ。
しかし呆れるほどピュアな恋愛に酔いしれる季節も、そう長くは続かない。
ときめきが安心感に変われば、新たな刺激に惹かれてしまうのが若い男の常なのだ。
2年生の、秋だっただろうか。
里奈が、随分と久しぶりにサークルの集まりに顔を出した。
彼女も1年の最初の頃は主要メンバーの一員だったはずだが、気づけば完全にフェードアウト。夏合宿にも参加していなかった。
必ず顔を合わせるはずの語学のクラスは、先生が出欠にこだわらないタイプ(試験さえクリアすれば単位を取れる)と聞いて以来、逆に僕がサボりがちだった。
その日は“総会飲み”と呼ばれる普段より華やかなパーティーで、女子はセミフォーマル・男子はスーツで集まっていた。
里奈はそこに、腿まで大きくスリットの入った真っ赤なロングドレスで現れたのだ。その圧倒的な艶やかさに、そこにいた全員が目を奪われたのは間違いない。
「相沢って、雰囲気変わったよな」
気安く声をかけるのも躊躇われるのだろう。
里奈に聞こえないよう囁く男たちの声には、止めることのできない好奇心と興味、そしてそれと同じだけの非難が混じっていた。
元々は仲が良かったはずの女たちも「品がないよね」などと陰口を叩く。明らかな嫉妬と、蔑みを添えて。
まあそれも、仕方がないのかもしれない。
噂というのはどこからともなく伝わるもので、彼女が今どういう場所に出入りをしているのか、僕たちは本人から知らされずともなんとなく聞き知っていたのだ。
つまり里奈が、自分とよく似た女たちと夜な夜な港区に繰り出し、金と時間を持て余したおじさんと派手に遊んでいるらしい、と。
「お前さぁ。金持ちおやじにたかるとか、恥ずかしくないのかよ」
その場から完全に浮いてしまい、けれどもそれを気にするでもなく、会場の隅でシャンパンを口に運ぶ里奈。
彼女に向かって、つい酒の勢いで口走ったのは…友情?対抗心?それとも、嫉妬心だっただろうか。
別に、里奈の好きにすればいい。頭ではそう思っているはずなのに。
一瞬、目を泳がせた里奈は、すぐに「何なの」と口を尖らせた。
「廉に関係ないでしょ」
突き放すようにそう言うと、僕を無視するように体制を変えてシャンパンを飲み干した。
これだから、気の強い女は嫌だ。
しかしプイとそっぽを向く里奈は同級生の他の女よりずっと大人びていて、早くも色香を纏った横顔にドキッとしたことだけは、白状せざるを得ない。
この記事へのコメント
爽やかで明るい学年の人気者って里奈は書いてたけど、廉側の読むと意外とギラついてるし、彼女いるのにふわふわ里奈に心揺れたりとどんな人なんだろう?もっと魅力的な人物だと読み応えさらにあるのにな。