ノリオとジュリエット Vol.1

ノリオとジュリエット:初夏の鴨川で出会った謎多き美女。凡庸なサラリーマンが、運命の恋に落ちた夜

“普通”を望む女


「じゃあ次は、樹里ちゃんね」

冗長に語る龍之介の自己紹介を切り上げる形で、紀夫は樹里を指名した。

「樹里ちゃんは、どんな人がタイプなん?」

紀夫の問いかけに、彼女は「うーん」と小さく唸った。

助けを求めるように隣の夏子に視線を向け、そしておずおずと、言葉を探すように口を開くのだった。

「好きなタイプは…普通の人、かな」

「なんや、それ」

龍之介が即座に突っ込んで、その場は笑いに包まれる。

しかし樹里だけは少しも笑っていないことに気がつき、紀夫はとっさに助け舟を出した。

「そういえば俺、昔の彼女に『普通すぎて嫌だ』ってフラれたことある。ってことはさ、樹里ちゃんの好きなタイプって、俺なんと違う?」

「なにそれ(笑)その彼女、なかなかヒドイな。確かに、紀夫って名前からしてものすごい普通やけどさ」

紀夫が自虐を交えて笑いに変えると、夏子が重ねて盛り上げる。

「それって、薫のこと?あいつ、キツイこと言うよなぁ」

紀夫と薫の恋愛をタイムリーに見てきた龍之介だけは、紀夫を庇ってくれたが。

言いたい放題の皆の様子を、樹里は困ったように首を傾げて見つめている。

そしてそんな樹里の横顔を、紀夫はこっそりと眺めた。

しかしこの時はまだ、なにも気づいていなかった。

樹里がどうして“普通の人”がいいと言ったのかを。

この一言に込められた真意を紀夫が知ることになるのは、もっとずっと後の話である。


思いがけぬ誘い


−翌朝−

「この後は、全国のお天気をお伝えします」

テレビから届くアナウンサー、一二三薫の声を聞きながら支度をする朝。

紀夫にとって当たり前となった日常に、しかしこの日は非日常な出来事が起きた。

ベッドに放置したままのスマホが鳴ったので手に取ると、表示されてい......


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