2018.05.20
愛しのドS妻 Vol.1ほんの出来心
妻との電話を切ったあと、貴裕はある女性のスマホを呼び出した。
半ばヤケのような、つれない華に仕返しをするような気持ちもあったかもしれない。
「今夜もしよかったら食事でもどうかな。ほら昨日の、発表会の成功を祝して」
誘った相手は、昨日まで新商品発表会の準備をともに進めてきたクライアント先の担当者、奈美子である。
初対面から絡みつくような視線を送ってきていた彼女に、貴裕は警戒しながらも、とはいえ男として悪い気はしなかった。
誘えば、たやすく乗ってくることもわかっていた。
「え♡嬉しい、ぜひぜひ!」
案の定、彼女は貴裕の誘いに大喜びだ。…華とは、まるで違う反応。
予約は『富麗華』ではなくカジュアル姉妹店『紫玉蘭』に変更したが、メールでリンクを送ると彼女は「こんないいお店、初めてです♡」と可愛いことを言ってくれた。
“会社の子たちと飲んでて、遅くなる”
22時過ぎに『紫玉蘭』を出ると、貴裕は華にそうLINEを送った。
帰ってこいと言われれば、帰るつもりだった。
しかし華からは即座に“OK”のスタンプが届いて…それだけ。どこにいるのかも、帰宅が何時になるのかも、照会されない。
−俺に、関心がないのか?
焦りのような、苛立つような感情が貴裕を惑わせた。
そう、それはほんの“出来心”だったのだ。
「もう少し飲まない?…もし疲れてたら、部屋をとってもいいし」
貴裕が、港区のホテルにあるバーの名前を告げると、奈美子はふっくらとした頬をほんのり染め、こくり、と頷いた。
決して清楚なタイプではないが、だからこそ初々しい反応が妙に艶っぽく、気がついた時には彼女を抱きしめていた。
敢えて話題にしたことはないが、貴裕は指輪をしているから、既婚者であることは最初から奈美子も承知のはず。
だから「帰らないで」とどれだけ奈美子が縋っても、貴裕は夜のうちにホテルの部屋を出ていた。
朝帰りにさえならなければ、「付き合いで」とか「仕事があって」とかなんとか言って華の追及をかわすことができる。
そう、そもそも最初から貴裕にとって、優先すべきは華だった。
当然のごとく、こんな関係が長く続くわけがない。
奈美子と男女の関係になって3ヶ月が経つころ、彼女の方から別れを切り出された。
「最後に、これ読んで」
最後だと言いながら何故かひとしきり抱き合った後、裸のまま渡された、薄いブルーの封筒。
中には便箋2枚にわたって、奈美子の貴裕に対する切ない思いが切々と綴ってあった。
じっと見つめる奈美子の濡れた瞳は、ありありと「引き止めて欲しい」と告げていたが、貴裕にそのつもりはなかった。
むしろ、奈美子の方から終わりを告げてくれてホッとしていたくらいだ。
しかし彼女の恋慕が詰まった手紙をあっさりと捨ててしまう気にはなれず、手帳の裏表紙に挟み、“男の勲章”よろしく、カバンにしまったのだ。
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