2018.05.09
二人の間で揺れる花嫁 Vol.1その思い出の正体は、宮崎俊。
圭一と同じ32歳で、真子の元彼だ。
俊は真子と同じ早稲田大学出身で、テニスサークルの先輩だった。圭一とは見た目も性格も正反対で、身長182センチの筋肉質な体形に整った顔立ちをしている。何事にも豪快で男らしく、誰とでもすぐに友達になるような社交的な男だった。
そんな彼とのデートはいつも情熱的で、真子の知らない素敵なレストランに連れて行ってくれては、いつも小さなサプライズを用意してくれていた。
その一つが、記念日や誕生日、クリスマスなど事あるごとに贈られるバラの花束だった。
「うん、真子はやっぱり、赤いバラって感じ」
そう言って俊は満足そうに頷いたが、真子は恥ずかしくて目を合わせられなかった。恋愛には淡白なほうだと自覚していた真子だったが、俊といるときは少し不安定で、恋する女そのものだったと思う。
しかし、2年半ほど付き合った俊との終わりは、突然やってきた。
「真子、俺、アメリカの院に行こうと思う」
もともと帰国子女だった彼は、もう一度アメリカで挑戦したい、という思いが強かったのだ。
「え……。院って…?いつまで?仕事はどうするの…?」
予想していなかった告白に、真子はひどく動揺した。しかし、俊の意思は固かった。
「院自体は2年だけど、その後は向こうで就職したいと思っている。俺の就職が決まったら、真子にもアメリカに来て欲しい」
2年も先の不確定な話…。しかもせっかく仕事も楽しくなってきたタイミングだったので、会社を辞めてついて行くなんて考えられなかった。
真子はさんざん悩んだ末、別れを決意した。
俊と最後に会って別れた後、真子は人目も憚らずに道端でうずくまり、涙を流した。
あの日握った大きな彼の手の温かさを、今もなお忘れられずにいたのだった。
◆
「嘘!?プロポーズされたの?おめでとー!!」
『ザ・ロビーラウンジ』で、真子は大学時代の友人である陽子に報告していた。
「ありがとう。突然だったからびっくりしたけど…」
「そっか、良かったね。真子もやっと俊くんのこと、吹っ切れたんだね」
―“シュンくん”。
陽子の発したその単語に、真子は曖昧に微笑んだ。同じ大学なので、陽子はもちろん俊のことも知っている。
「確かに俊君はカッコよかったけど…。でも、圭一さんいいじゃん。絶対いい旦那さんになるよ」
「うん、そうね」
自分が必死でしまい込んでいた俊への気持ちを見抜かれないよう、真子はにっこり笑った。
「本当良かったね。それで、結婚式はいつするの?」
「実は、今お互いに忙しくて、まだ話せていないの。でも、式はしたいと思ってる」
しかし真子は結婚式自体に、はっきりした願望はなかった。
「どういう式にしたいの? 」
「そうだなぁ…。ゴージャスな“ザ・日本の結婚式”っていうのはしたくないんだよね。人を大勢呼ぶから、両親とも会話できないだろうし、来てくれた人にちゃんとおもてなしできなそうで」
「そっか。たしかに圭一さんとは同じ会社だから、会社の人を呼ぶと結構人数増えるしね。皆と話す時間が取れなさそう」
陽子の言う通り、社内結婚なので、どこで線引きをするのかが難しいのだ。
「だったら、海外ウエディングは?私1回招待されて行ったんだけど、アットホームな式で良かったなぁ。その子の親とか、新郎の友だちとも仲良くなったし」
陽子からの提案に、真子は、いいかもしれないと思った。
◆
帰ってから、真子はインスタグラムを開き、「#海外ウエディング」で検索してみた。
様々な写真が並ぶ中、少し恥ずかしそうに、でも心から幸せそうに笑う新郎新婦の写真が目に留まった。
「ふふっ…。可愛い」
そう思いながらいくつかの写真を開いていくなかで、一枚の写真が目に入った。
それは白を基調としたモダンで美しい内装に、青い空と海が広がり、息をのむほど美しいチャペルだった。
―素敵…。モアナチャペル…?これ、どこだろう?
ハッシュタグを見ると、#HAWAII#arluisweddingと書いてある。その写真を見て、真子はピンときた。
―ハワイなら圭一も大好きだし、ここなら素敵な式ができるかも。
真子は「#arluiswedding」のインスタグラムを、何件もさかのぼってみた。
2人で行ったことはないが、圭一は幼いころ毎年家族でハワイ旅行をしていたらしい。これなら圭一も喜んでくれそうだと、真子はウキウキした気持ちになり、アールイズ・ウエディングのHPで情報収集を始めた。
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