花の第1営業部 Vol.6

「イケてる男って、こんな感じでしょ?」弱さを隠すため、自分を取り繕い続ける男の悲哀

まるで90年代トレンディドラマの、主人公のような男がいる。

彼の名は、一ノ瀬瑛太。ニックネームは“イチエイ”。

華やかなイメージの広告代理店の中でも、「エリート」とされる、大手自動車メーカーの担当営業だ。

慶應義塾大学卒業。港区の大手広告代理店勤務。“花の第1営業部”所属、35歳、独身。

エリート街道をひた走ってきた瑛太は、このまま順調に出世できるのか…?

これは、東京でしのぎを削る30代サラリーマンの、リアルな心の叫びである。

後輩の航が競合プレゼンの主導権を握り、瑛太はチームメンバーの信頼を奪われそうだったものの、企画のキーとなるテレビ局との調整クライアントキーマンとの会合を乗り切り、徐々に信頼を取り戻し、いよいよプレゼンに臨んだのであった。


「今回の当社の新型車のキャンペーンですが、非常に残念ですが、今回は他社さんにお任せしたいということになりました」

競合プレゼンからちょうど一週間後、瑛太と部長は、結果を聞きにクライアントの大和田部長のもとを訪れた。

-嘘だろ?プレゼンの後、あんなに評価してくれたのに。

瑛太は、目の前が一瞬真っ白になった気がした。しかし、どこか冷静に納得している自分もいたのだ。

それは、このプレゼンの準備をしながらずっと感じていたこと。

これまでの瑛太の人生は、“それなりに”努力をして、“それなりの”結果が出ていた。

だから、これからも“それなりに”人生上手くいく。そう信じていた。


逆に言うと、本当に望んだ結果は手にしたことがなかった。


大学受験では、志望の学部ではなかったが、志望の大学には入れた。だから慶応に入れたということで、自分を納得させていた。

就職活動では、商社やマスコミが人気の中で、今の会社に決まった。

強い志望理由も広告に対する熱い思いも特になかったが、皆に羨ましがられることで、これで良かったのだと自分に言い聞かせていた。

有名大学を卒業し、大手企業に入り、大手クライアントを担当している。

はたから見れば、順調に人生の駒を進めている。

だがこれは、本当に自分が心から望んでいたことなのか。それとも、「こうしておけば、平均より上の自分でいられる」という、社会での相対的な価値観に踊らされているだけなのか…。

「肩書き」だけで空っぽの自分に、どこか気づいていた。

このままできっと“それなりに”上手くいく、と無意識で何度も言い聞かせ、本当の自分から目を背けていた。

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