2018.04.09
理想の嫁 Vol.1180度変わった、元キャリア女子の人生
美月の結婚が決まったとき、周囲は、セレブ婚だ、玉の輿だと大騒ぎだった。
それもそのはず、山内家は、赤坂で60年続く歯科医院なのだ。
先代である祖父が開業し、現在は豊の父が院長を務め、豊は副院長として勤務している。
その土地柄、患者の中には大物政治家や経営者も多く、山内家は政界や財界との親交もあるらしい。
歯科医院の入った8階建のビルは、山内家の所有だ。潤沢な資産に支えられた一家なのである。
夫の豊と出会ったのは、大学時代にまで遡る。ちょうど同じ時期に、二人とも大学の短期海外留学プログラムでイギリスを訪れていて、現地の大学主催のパーティーで知り合った。
その後日本で再会した二人は付き合い始め、5年の交際を経て、結婚することになった。
「美月、このご時世で専業主婦になれるだなんて、本当に羨ましいな」
友人からはそんなことも言われたが、美月の本心はこうだ。
「本当は仕事を続けたかった」
仕事を通じて認められることが、美月にとっては何よりの喜びだったし、達成感を与えてくれた。数値や評価というものがいかに自分の支えだったかということは、主婦になってから特に痛感している。
美月が仕事を辞めなくて済むように、豊もなんとか母親を説き伏せようと必死になってくれたことは知っている。しかし、豊の母は断固として意思を曲げず、結局折れたのは美月の方だ。
大切な豊を失うことは考えられなかったし、それに、ポジティブな考えに切り替えてみたのだ。
ー豊を支えることにも、もしかしたら仕事以上の喜びがあるかもしれないわ。
彼が祖父や父を心から尊敬していて、医院を愛していることもよく知っていた。だからそんな彼を応援する人生も悪くないかもしれない。
そう必死で自分に言い聞かせたのだった。
こうして結婚を機に、輝かしいキャリアを積み重ねてきた美月の人生は、それまでとは180度違うものとなった。
あれから気がつけば1年。家事をこなす毎日にもすっかり慣れた。
毎朝、栄養バランスを考えた朝食を作り、皺一つないシャツを豊のために用意する。心なしか豊は、結婚前よりも肌ツヤが良いし、なんだか見た目も洗練したような気がする。
大切な人を支える毎日も、確かに幸せだ。
◆
そのとき突然、携帯電話が鳴った。美月は慌てて掃除の手を止め、電話に出た。
「美月さん、今日は何時頃いらっしゃる?早めに来てくれるとありがたいんだけど」
美月がもしもしと言うより前に、義母・知代子は用件を話し終えている。
「おはようございます。わかりました、14時には伺います」
義母は「それじゃまた後で」と言い、またもや一方的に電話を切った。
時計に目をやると、すでに10時を回っている。代々木上原のマンションから豊の実家のある豪徳寺まではほんの10分程度だが、予定よりも早く訪ねなければいけなくなった。
「いけない、さっさと掃除を終わらせてお礼状を書かなくちゃ!あいかわらずお義母さんは、強引なんだから!」
義母・知代子は、開業医の娘として育ち、女子大を卒業後すぐに結婚した、スーパー箱入り娘だ。
それに対し、美月は中学、大学受験を勝ち抜き、会社でも男性と肩を並べて働いてきた。嫁と姑という関係上、精一杯歩み寄ってはいるものの、義母とは反りが合わないのだ。
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