絶対に勝てないモテ女。衝撃の告白
「あら杏子、ご機嫌じゃない。何かイイことでもあったの?」
小鳥のさえずりのような声に振り返ると、相変わらず少女のような顔をした同期の由香が立っていた。
化粧室にて鼻歌交じりに口紅を塗り直していた杏子は、その手を止め、思わず身構えてしまう。
美人でどちらかと言うとクールビューティな杏子とは対照的に、バックオフィス勤務の由香は、まさに“ゆるふわ”代表のような女である。
小柄で華奢な体つきと人懐こい童顔で、周囲に惜しみなく笑顔と愛嬌を振りまく彼女は、昔から社内のマドンナ的存在で、とにかくモテまくっていた。
誤解しないで欲しいのだが、杏子は決して由香が嫌いなわけでも、嫉妬しているわけでもない。
ただ彼女を前にすると、自分のような女はどうしても、反射的に生物的脅威のようなものを感じてしまうだけなのだ。
「う、ううん...特に何も...。由香は最近どう?元気?」
儀礼的に問うと、由香は意味ありげな含み笑いを浮かべ、杏子をじっと見つめた。
純真無垢とも、妖艶とも形容できるような不思議な眼差し。女の杏子ですらソワソワしてしまうのだから、これが男ならばイチコロであろう。
「私ね、実は結婚するのよ」
「えぇぇえ?!またっ?!?!」
声のトーンを全く変えずにサラッと重大発表をする由香を前に、杏子の方が声が裏返ってしまう。
そしてよく見ると、彼女の薬指では零れ落ちそうなほど巨大なダイヤが光っていた。
天才的若手エースと評判のトレーダーの後輩と付き合っているとの噂は耳にしていたが、まさか8歳も年下の男にこの指輪を買わせたのだろうか。
何を隠そう、彼女はバツイチなのだ。
恋愛下手で婚活には苦労しかなかった杏子からすれば、自分よりハイスペックの男から二度もプロポーズされるなんて、もはや奇跡に近い。
「“また”なんて、杏子ったら失礼ねぇ」
クスクスと鈴が転がるような声で笑う由香を前に唖然としていると、彼女はさらに杏子の心に爆弾を投げ込んだ。
「それにね、私、デキちゃったの」
「?!?!」
咄嗟に由香の身体に目を向けると、ふわりとしたワンピースに隠されていたが、たしかに言われてみれば、お腹あたりに不自然なボリューム感がある。
「お、おめでとう...!」
杏子は動揺しながらも祝いの言葉を口にしたが、それにしても、顔も手足も依然としてほっそりと華奢な身体つきの由香は、全く妊婦には見えない。
「ねぇ、杏子ももう結婚して2年くらい経つじゃない。赤ちゃんはまだなの?」
聖母のような笑顔で問われたとき、杏子の胸は久しぶりにザラリとした感覚に襲われた。
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