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  • 銀座女子との100日 Vol.2

    銀座女子との100日:好きな子とデート中、知り合い(女)に馴れ馴れしく声をかけられた男の悲劇

    「あ、えっと、久しぶり」

    無視することもできず、なるべく淡々と返事する。だが根が明るい恵比寿女子は、久しぶりの再会を素直に喜んでくれるおかげで、やたらとテンションが高く楽しそうだ。

    「えー、まさかここで会うなんて。相変わらずタクミくん、良いお店知ってるよね〜」

    言いながら、4人の女性はちらりと泉を一瞥する。

    「あ、ごめん。デート中だよね」

    ようやく落ち着きを取り戻した彼女たちは、泉に軽く会釈すると「じゃあタクミくん、またね〜」と言いながらレッドソールで歩き去った。

    おもむろに、静寂が戻る。だがそれは、とてつもなく重たい。

    「ごめんね泉ちゃん。ちょっとした知り合いで…何回か飲んだことがあるだけなんだけど、すごく元気なんだよね、彼女たち」

    やましいことなんて何もないのに、無駄に焦ってしまう。そんなタクミの態度を見て、泉の眉間がわずかに寄せられた。

    せっかく、ホームである恵比寿デートにしたのに、それが仇となるとは。

    「2軒目に、ぜひ連れて行きたいバーがあるんだけど」

    そろそろ出ようかというタイミングでタクミが切り出すと、泉は「今日はもう帰るね」と笑顔で言うだけ。

    さっきの4人と遭遇してから、明らかに泉のテンションは下がっている。

    「そこのバー、ノンアルコールのフルーツカクテルが美味しいんだよ」

    あまりお酒を飲まない泉のために、そんな言葉で食い下がるが「でも今日は帰るね」の一点張りだ。

    そして、泉は店を出るなり通りがかったタクシーを自分で止めて「やっぱり恵比寿って、ちょっと苦手だな」という言葉を残して、颯爽と乗り込んだのだった。

    —ヤバイ。マジでもう次はないかも。

    タクミは、とぼとぼと自宅に帰り、焦りを募らせた。

    —やっぱり恵比寿はダメだ。知り合いに会いすぎる。

    それにどちらにしろ、泉はもう恵比寿に誘っても来てくれないだろう。

    —だったら…。



    翌日、土曜日の15時。タクミは銀座の中央通りを歩いていた。

    —俺が銀座に詳しくなって、楽しい銀座デートができればいいんだ。

    先日のデートではアウェイの洗礼にヒヨってしまったが、この状況ではもう、勝ち点の高いアウェイゴールを狙うしかない。

    意を決して訪れた、一人銀座。

    どこから攻めればいいのかと考えあぐねていると、銀座三越が目に入り、前回の銀座デートの思い出に吸い寄せられるように、入り口をくぐった。

    だが入ってはみたものの、女性が多いフロアはなんとなく居心地が悪い。

    記憶を頼りに5階のメンズフロアに行くと、泉と一緒に訪れた時も見た、真っ白のボトルが目に飛び込んできた。


    『リサージ メン』って、男性用化粧水か…

    スタイリッシュなボトルのトリガー部分を持っていると、銀座デートで泉が言った、ある一言が脳裏で蘇る。

    『清潔感がない男の人は苦手なんだよね』

    泉が言った言葉。その言葉に背中を押されるように、タクミは『リサージ メン』スキンメインテナイザーオイルコントロールソープを購入した。

    —あのアキラさんが使ってるんだ。俺も…。

    泉たちが“清潔感がある理想の夫”と絶賛していた、会社の先輩・アキラ。

    アキラの自宅に招かれた際、洗面台の上に同じものが置いてあったのだから、迷う必要はなかった。

    それからというもの、タクミは足繁く銀座へ通った。

    買い物する時も、特に用事がなくても、銀座に足を運ぶ。男同士の食事だってコリドーなんて行かずに、もちろん銀座へ。

    恵比寿デートから1か月が過ぎたが、その間も、しつこくない程度に泉へのLINEを続けていた。

    幸い、既読スルーされるまでには至っていないことに、タクミは毎回ホッと胸をなでおろしていた、そんなある日…。

    「おう、タクミ。泉ちゃんの地雷踏んじゃったらしいじゃん?」

    会社で、アキラに声をかけられた。

    「地雷?何すかそれ。理沙さんに何か言われたんすか?」

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