理沙はアキラの妻であり、泉の学生時代からの先輩だ。
—俺の不甲斐なさも、全部筒ぬけなんだろうな、どうせ…。
恥ずかしいというよりも、情けない。半ばヤケになりながらも、地雷という言葉が引っかかった。
「いやなんかお前さ、恵比寿に行った時知り合いの女の子たちに声かけられたんだろう?泉ちゃん、昔お前みたいな恵比寿の男と付き合ってて、同じような状況になったことが何度もあるんだって」
アキラは、わずかに顔をしかめて言った。
その男は、泉のことを絶対に“彼女”と紹介しなかったこと。泉がそのことで深く傷つき、それ以来恵比寿も、恵比寿にいる男も嫌いになったこと。
「泉ちゃん、わりとお前のこと気に入ってたみたいだけど、もし付き合ってもまた同じようなことになるんじゃないかって思ったみたいだぞ?」
そこまで聞いて、タクミは大きく息を吐いた。
「泉ちゃん…」
あの日恵比寿で、知らなかったとはいえ泉を傷つけてしまった自分が憎かった。
その夜、アキラは意を決して泉にLINEを送った。
“泉ちゃんに、どうしても会って話したいことがあるんだ”
まわりくどい誘い方はせず、ストレートに。だがその夜、メッセージは既読になったものの、泉から返事が来ることはなかった。
◆
よく晴れた日曜日、タクミは銀座で泉と待ち合わせをしていた。
「会って話したい」と送ったLINEは、翌日の午後になってようやく「少しだけなら」と一言返ってきて、どうにか約束を取り付けることができた。
会って早々、人目も気にせずタクミは思いをぶつける。
「泉ちゃん、聞いてほしんだけど、確かに俺は恵比寿でしょっちゅう飲んでるような男だけど、泉ちゃんに隠すようなことは何もないし、泉ちゃんのことをきちんと紹介できないような人なんていないから。むしろ、男も女も、友達みんなに俺の自慢の彼女だって言って回りたいくらいだよ」
突然出てきた「彼女」という言葉に泉は驚いているが、タクミは気にせず続けた。
「俺さ、泉ちゃんのことも、泉ちゃんが好きな銀座のことも、もっともっと知りたいんだ。だから、俺の彼女になって、色々教えてくれないかな?」
伝えようと思っていた全てを言い切ると、泉は少しムッとした表情をしていた。
「…どうしてこんな場所で?」
下から睨むような目つきに、タクミは怯む。だが彼女はすぐに笑顔になった。
「うーん、どうしよっかな。それよりタクミくん、前にあった時よりなんだか小綺麗になってるね」
泉に茶化すように言われて、「そうかな。あ、化粧水かな」と小さく呟くが、泉には聞こえなかったようだ。
「ここにいるの、恥ずかしいんだけど」
泉が、周囲をちらりと一瞥して、ゆっくりと歩き出す。つられてタクミも歩き、そっと泉の横顔を覗き見る。
泉はなんだか、満足そうに笑っている。二人の距離も、前回よりも近くなった気がする。
「じゃあ、まずは4丁目の交差点まで歩こっか」
泉がそう言ったのと同時に、タクミの手がそっと握られた。少し冷たくて、華奢な泉の手。
タクミは迷わずその手を、ぎゅっと力強く握り返す。
それは、二人が出会って100日目の出来事だった。
—Fin.
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